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そんなふうに諦めかけた、その時だった。
助手席の窓がコンコンコンとノックされた。
誰?
ううん、誰でもいい。
助けてっ!
っていうか、助けてくださいっ!!
私は精一杯、手足を動かそうと試み、ハンカチが押し込まれた口から「んー、んーっ!」と一生懸命に声を出す。
すかさず右手で口に蓋をしてきたこせがれが、助手席の男に向かって「誰だよ。おまわりか?」と訊いた。「わかんねー」という回答。「黒スーツの野郎だ」という返答。
どうやらスモークガラスの向こうに男が立っているらしい。
ここぞとばかりに私は救いを求めようとする。だけど悲しいかな、やっぱり大声は上げられないわけだ。もはや運は尽きているのだろうか。否、そうは思いたくないっ。
しんとなった車内に、ノック音だけが響く。
コンコンコン。
コンコンコン……。
そしてそれはいきなり起きた。
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