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 そう安堵しかけた矢先に、向こうから歩いてくる黒人に気づいた。うげげっと声が出そうになった。危機はまだ続くらしい。  黒人がゆっくりと近づいてきた。私を助けに来てくれたヒーローと思しき男は驚いたようで、「うおっ、デケーな」と上半身をのけ反らせた。  びっくりするのも無理はない。黒人は二メートル超の大男なのだ。男だって百八十半ばくらいはあるだろうけれど、比較すると一回り小さく見える。  男に「テメー、名前は? なんてーんだ?」と訊かれると、黒人は片言の日本語で「ボブいいますデース」と答えた。  そう。ボブだ。トレードマークは長いドレッドヘア。事務所で何度かすれ違ったことがある。そのたび、私のことを見て、白い歯を剥き出しにして、にっと笑った。その笑顔が大嫌いだ。嫌悪感を覚えるしかなかった。メチャクチャ、スケベそうに映ったから。 「見た感じ、オメーはボディガードかなんかなんだろ? なのに、今までどこほっつきあるってやがったんだよ」 「近くの居酒屋で一杯ひっかけてましたデスネー」 「不真面目な野郎だな」 「理沙ちゃんをどこに連れていく気デスカー? 連れていかれたら、ボブ、困りますデスネー」 「ほぅ。オメーも参加するつもりだったのか」 「そうデスネー。ボブ、女子高生大好きデスネー。女子高生、いろいろおいしいデスネー」 「ナカがキツいからサイコーだってんだな。この俗物野郎が。面倒だからとっとと言うぜ、ボブ。交渉するまでもねーよ。おまえは今、俺の敵になった」 「ハッハッハ。ボブを倒せるとでも思っているのデスカー?」 「倒せるか倒せないかじゃねー。やるんだよ」 「だったら、かかってこいデスネー」 「そうさせてもらうわ」
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