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 なかば唖然としながら一部始終を見守っていた私は、男に近づき「あんた、誰……?」と尋ねた。男は「あんた呼ばわりすんな、JKが」と舌打ちまじりに、不機嫌そうに答えた。 「JKじゃない。理沙。草薙理沙っ」 「誰もテメーの名前なんざ訊いちゃいねーよ」  突然だった。  レイプされそうになったこと。その事実が怖くて怖くて怖くてしょうがなくなって、脚ががたがたと震え出した。立っていることすらままならなくなり、体を支えようとして思わず男の体に抱きついた。服の上からでも筋骨隆々なのがわかった。とてつもなくマッチョだ。分厚いタイヤみたいな体だ。 「……ありがと」 「ああ。運がよかったな、JK」 「だから、JKって呼ばないで」 「JKはJKだろうが」 「あんたはいったい、何者?」 「あんたって呼ぶな。くどいぜ」 「ねぇ。何者なの?」 「警察官みてーなもんだ」 「おまわりさんとは違うの?」 「ちぃとばかし違ってる」 「じゃあ、なんていう組織のニンゲン?」 「組織とか、アホかよ。言うか、んなこと」 「どうして教えてくれないの?」 「秘密だからだ」 「秘密?」 「ああ、そうだ、秘密だ。とにかくそういうことなんだよ」 「あのさ」 「あん?」 「LINEしよ?」 「ああん?」 「こうして巡り会えたのも、なんかの(えん)じゃん」 「めんどくせーのは御免だ」 「ちゃんとお礼したいの。ご飯くらいは奢りたいの」 「JKに施しを受けるほど貧乏じゃねーよ」 「いけず。意地悪」 「ああ。俺はいけずで意地悪なんだ」 「じゃあ、メアドでいいから教えて?」 「やだね」 「教えて」 「やだっつってんだろうが」 「教えてっ!」 「デケー声出すな。ガキの女の声はキンキン響いてうっとうしいんだ」 「もう一回言う。教えてっ!」 「ああ、くそっ。ガキってのは、なんでこうもうざってーんだよ……」  嫌気が差したような男ではあるけれど、メアドを教えてくれた。いや、教えてくれたっていう表現は正確じゃない。だって、早口で(そら)んじただけだったから。 「うん、わかった。覚えた」 「嘘つけ」 「名前は? なんていうの?」 「なんだっていいだろうが」 「答えて。じゃないと離れないからっ」 「ああ、ちくしょう。ホンジョウだ。ホンジョウ・サクヤ」 「サクヤ?」 「いきなり呼び捨てにしてくれんな。オラ、離れろよ」  言われた通り、私はサクヤを拘束していた手を解いた。  それから彼を見上げて「えへへっ」と笑った。  サクヤ、サクヤ、ホンジョウ・サクヤ。  そのマッチョさ、やり口からは想像もつかない識別子だ。  ホント、美しくて綺麗な名前だ。  いい感じの響きだ。  ちょっと忘れられそうもない。
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