わんこ

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翌日の、朝。 「悠音、そろそろ出るか?」 「んー……」 朝食を食べ終わり、学校に行く準備が整った俺は、悠音の部屋の扉をノックして声をかけた。 「悠音ー?」 「んー……!」 眠そうなだだをこねてそうなくぐもった声が聞こえてくる。 めんどくさいよ。 「悠音が行かねんだったら先いくぞー?」 「んー!んーんー!!」 「わかったからうるさいうるさい」 部屋の外の俺にまで聞こえてくるような、ベットで足をばたばたさせた音。 下の階に響いて苦情来るだろ。 下の階三年生なんだから怖いんだぞ。 「もう……入るぞー?」 許可を待たずに部屋に入ると、ベッドの上に布団の塊のようなものを見つけた。 そこに悠音がくるまっているんだろうか。 「おら。行くぞ悠音」 ガシィッ 「うわっ!?」 塊をつんつんとつついていた俺の腕が、中から飛び出てきた手に捕まる。 「……学校着いたらもうお前と話せねえだろ」 ……お前が変なキャラ作ってるからな。 ていうか、布団にくるまってるから声はくぐもってるんだけど、なんか……。 低くて甘い、色気をたっぷり含んだ、所謂『イケボ』。 こいつ男子高校生だよな? 俺と同い年だよな?? 悠音の朝から色気ダダ漏れな声に、少しばかり聞き惚れる俺。 いやまあ、イケボになりたいんわけじゃあないけど。 でも、こんな普通な俺の普通な声より、ちょっとかっこいいっていうか大人の色気漂う声の方がいいっていうか……。 別に、超羨ましいとか思ってないんだからな。 「そんくらいなら俺はもう学校行かない…」 ……超絶めんどくさい。 こうなったら、あの手を使うしかないか。 「……悠音、腕離せ」 「やだ。腕離したら学校行くだろ」 「……痛いんだけど」 「!?」 途端、ぱっと腕が離される。 塊から顔を覗かせた悠音は、ひどく驚いたような、怯えてるような表情をしていた。 せっかくの綺麗な顔が台無しだぞ。 「あ、藍矢……ごめん……」 「……いいよ、もう。俺先行くから」 足早に悠音の部屋を出て、玄関に向かう。 ドタッッ ガンッ ガッシャァーン 靴を出してたら、後ろからすごい音が聞こえてきた。 まあ気にせず靴に足をつっこんだ瞬間。 「藍矢……っ!」 後ろからめんどくさい大型犬に抱きつかれた。 「俺も一緒にいく……」 「なら離れろ。靴はけ」 悠音は一瞬さらに力を強く込めて抱きしめ、離れてくれた。 「履けたか?行くぞ」 玄関から廊下に出たらあら不思議。 さっきまでの甘えた大型犬は何処へやら、俺の隣には、冷たい雰囲気を醸し出す『氷の王子様』。 切り替えはっや。 そんなすぐキャラ変出来るなら朝から氷モード(氷の王子様の状態のこと)でちゃっちゃと登校してくれよ。 「……藍矢」 「なんだよ」 隣で歩いてる悠音が話しかけてきた。 「怒ってる?」 「……」 「嫌いになったか?」 多分、布団にくるまって駄々こねたことを言っているのだろう。 そんなん日常茶飯事だしなんなら幼い頃から経験してきたので、慣れっこだった。 全然怒ってないんだけど、どういう反応をするのか気になって。 「……まぁ、少しだけイラついた」 そう言ってみて、隣のヤツの顔を見上げると。 「なっ……!?悠音、!」 悠音は急に走り出し、廊下の曲がり角ですぐに見えなくなった。 「……これは、やっちまったか」
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