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朝の教室。
入ると、窓側の方からすごく視線を感じたから目をやれば、悠音だった。
ずもももも……と後ろに黒いオーラが吹き出ている。
いつもならこの時間、女子に囲まれているんだが、今日は悠音の異様なオーラを察して、遠巻きに眺めているだけだ。
やばい。
すごい見てくる。
めっちゃ見てくる。
悠音の視線で俺の体が貫けるくらい見てくる。
そんな悠音からすすすーっと視線を逸らし、廊下よりの位置にある自分の席へ向かう。
「おいーっす、西川」
「藍矢おはよー。お前、どしたん。なんかあったん、悠音と」
俺の前の席の、西川秋月が、にしし、と笑いながら聞いてくる。
陽気な性格で、頭がすごく良い。
西川は、悠音の本性、そして俺との関係を知ってる数少ない人間の一人だ。
俺は授業の準備を終え、今日の朝の出来事を説明する。
「いつもほんとは、『はいはい怒ってない嫌ってない』とか言ってるんだろ?」
「まあな」
「で、突然『イラついた』とか言われたからあんなガラ悪くなってんだ」
ひゃはは、と楽しそうに笑う西川。
いやそれどころじゃねえよ。
さっきからめっちゃ見てくるんですけど。
怖いよおかーさーん(棒)
「今日の昼休みにでも話しかけてやれば?」
「いや、悪いのはあいつだろ。むしろ、よく今まで許してきたと思わない?」
「自分で言うのかよ」
「お前の幼なじみと毎朝そんなやり取りするとしたらどうよ」
「初日でキレるな」
「だろ?」
西川には、俺と同様幼なじみがいる。
そして、悠音とは全く反対の性格だ。
悠音が、普段は冷たい王子様、俺には甘えたな大型犬だとすれば。
西川の幼なじみは、普段は正統派王子様、だけど西川に関しては、無口無表情、だけど独占欲が半端ないネコみたいになる。
「なに、僕の噂をしてるの、あきちゃん?」
おっと、噂をすればなんとやら。
目の前に現れたのは、さっき話してた西川の幼なじみ、本堂陽樹。
綺麗な黒髪、白い肌にぱっちり二重の大きな瞳。いつも薄く微笑まれている唇。
日本の正統派イケメンのような整った顔立ちの彼は、いつも神々しいオーラを纏っていながら、どこか儚さも感じさせられる。
簡単に言うと、超イケメンってこったい。
「陽樹、はよーっす」
「おはよう、藍矢。朝から男と喋っているのを見た時は殺意が芽生えたけど、藍矢だから良かったよ」
全人類が見とれそうな優しい微笑みを浮かべつつ、放たれた言葉は恐ろしい。
陽樹は、自分の認めた人じゃないと、必要以上に西川と近付けさせない。
認められた俺ですら、西川の名前呼びを禁じられた。
「こえーこというなよ、はる」
「あきちゃんが不用心なんだよー」
いつも聖母(陽樹は男だが)のような笑みを顔に浮かべている陽樹。
だが、その笑顔はどこか作り物のようで少し怖い。
「そういえば藍矢、悠音と何かあったの?アイツすっごいオーラ出してるけど」
「あぁー……まあな」
悠音と陽樹、お互い本性は知っている。
だから、俺、悠音、西川、陽樹の四人だけだと、みんな息が抜ける会話が出来るのだ。
まあ、四人集まって仲良く会話とかした事ないけど。
悠音は、誰とも馴れ合わない『氷の王子様』だからな。
「早く解決してよ。女子たちが怖がっててうざい」
おいそんな事言うなよ。
恋愛ごとに縁のない俺と西川の目の前でそんなこと言うな。
ほら、西川も超睨んでんじゃん。
俺も睨んでるけど。
「なあにあきちゃん、可愛い顔してどうしたの。……あとなに藍矢、睨むなら悠音を睨んで」
西川の頭を撫でて愛でながら、俺には冷たい言葉を吐く王子様。
おい。
対応の差よ。
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