勿忘草

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勿忘草

    いつかのこと、ホームセンターで見かけた小さな花の苗。君はその花が好きだと言った。  あんなことさえなければと、何度思っただろうか。何度、無かったことにしたいと……。  あの日、あの雨の日、僕がもっとちゃんと君を見ていれば、こうはならなかったはず。思えば想うほど、痛みが苦しめる。  暗い部屋に一人きり、二人で育てた花も結局咲くことはなく、今では玄関におざなりだ。 「ねぇ、勿忘草の花言葉って知ってる?」  ホームセンターの帰り道、河川敷を歩きながら彼女は訊いてきた。真実の愛なんて、こっ恥ずかしくて適当に相槌を打って目を逸らした。  だからね、まともに聞いちゃいなかったんだ。でも、今なら分かる。  今日、久しぶりにプランターを見たら、咲いてたんだ。青に紫、ピンクや白……色とりどりの沢山の小さな花が。  河川敷で楽しそうに話していた君の笑顔と言葉がフラッシュバックして、景色が滲む。僕はドナウ川で命を落とした騎士ルドルフにも、況してやその恋人ベルタにもなれない中途半端な存在だ。  氾濫した川に飲まれてまで愛を叫ぶなんて真似出来ないけど、君との時間を毎日失っても想い続けるなんて、まるで、花言葉の由来どおりだ。ただひとつ違うのは、君の側に僕がーー。  勿忘草のもうひとつの花言葉。 『Forgot-me-not(私を忘れないで)』  ……忘れられる訳がない。  
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