刺激的

2/3
13人が本棚に入れています
本棚に追加
/3ページ
 ビルの立ち並ぶ、街の一角。うす暗いアジトに殺し屋はいた。かび臭いにおいが部屋に立ち込めている。若い殺し屋は、狭い部屋のぼろぼろになったソファに、行儀悪く寝ころんでいた。  あれからすぐに金が振り込まれた。金額にまちがいはない。どうやら競争というのは本当のようだ。増えた数字を眺めて殺し屋は思う。こうなると、殺し屋のプライドがかかってくる。依頼を達成して報酬をもらうことも大事だ。ただ今回の場合、依頼の失敗は競争相手より腕が低いことと同義になってしまう。それだけは我慢ならない。なにせ殺し屋の世界に入って日が浅い若輩者なのだ。逆に、この依頼をこなして評判が広がれば、多くの注文が舞い込むことだろう。あの老婆はずいぶん顔が広いようだった。より高みに登れるにちがいない。若い殺し屋は野心にあふれていた。  ひょっとしてこうなることを見越して、殺し屋同士で競争させているのかもしれない。その様子を安全な場所から眺めて楽しんでいるわけだ。さすが金持ちの遊びはスケールがちがう。殺し屋は感心して、呆れた。  だが、すぐに気合を入れなおす。勢いをつけソファから起きあがる。ソファが壊れそうだと悲鳴を上げ、煙のようなほこりを吐き出した。  若い殺し屋は老婆の挑戦を受けて立とうと準備にかかった。たとえ老婆の遊び道具だとしても、負けることは不愉快なのだ。  さっそく情報収集にとりかかり、標的の生活リズムを把握した。そして殺しを実行するまであと数日というところまでこぎつけた。しかし、競争相手のほうが一枚上手だったのか、寸前のところで獲物を奪われてしまった。若い殺し屋は勝負に負けたのだ。  元気なくアジトに戻った殺し屋はソファに倒れ込んだ。昼だというのにろくに日が当たらない部屋は、殺し屋の顔をより曇らせた。多少の金は事前にもらっていたから、丸々損をしたわけではない。しかし、納得いかない気持ちは鎮まらなかった。あの老婆の屋敷が思い浮かぶ。老婆は実に楽しそうな顔をしていた。汚らしい部屋で生活している自分と、天と地の差だ。ふとなにかひらめいたのか、殺し屋がソファから身を起こす。そして、ゆっくりとした足取りでアジトをあとにした。
/3ページ

最初のコメントを投稿しよう!