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二
帰りが遅くなって母親に酷く怒られても、翔太は懲りもせずに、翌日も同じ公園に足を運んだ。昨日と同じベンチに座り、佇む老人を見つけると、嬉しそうに駆け寄って、そしてベンチの隅に腰掛けた。
老人は如何にも好々爺らしく、目尻に幾つもの皺を作って翔太を出迎えた。
「ほうほう、昨日の坊やだね」
「おれ、翔太って名前だよ」
一人前の勇者だと言わんばかりに胸を張る翔太に、老人は、
「すまんすまん、翔太君。昨日はありがとうな。翔太君に貰った薬草のお陰で痛みはすっかりなくなったよ」
と、元より痛みなどなかった左の義手を顔の高さまで上げた。それを聞いた翔太は、満足気に、でもどこか心配を込めた様子で、うん、と頷いた。
翔太は公園内を何とはなしに一瞥した。ブランコ周辺には昨日と同じように、翔太よりも年上だろう少年が三人いて、その中には帰り間際に翔太に視線を向けていた者もいた。今日も今日とて、何度か翔太に視線を投げていたのだが、翔太は気にする様子はなく、老人に向かって静かに尋ねた。
「ねえお爺さん、その手、どうしたの?」
老人は笑いながら答えた。
「戦争でやってしまったんだよ。戦争って分かるかい?」
「分かるよ、それ位。外の国の人と銃で撃ちあったりするんだろ」
「そう、その通り。昔々の話だが、とっても大きな戦争があってな、その時にやってしまったんだよ」
「そっか……ねえ、そのお話、もっと聞いてもいい?」
翔太は興味津々といった様子で、老人の方向へ身を傾けた。
「楽しい話ではないよ」、老人は笑顔を崩さずに続けた、「残酷な話だ。とても怖い話だ。それでも聞きたいかい?」
翔太は真剣な顔で、一つ頷きを返した。老人は、そうか、と重い口を開いた。
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