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 いつの間にか太陽が隣町の山に半身を隠して、辺りはすっかり夕焼け色に染まっていた。老人は昔の出来事を一つ一つ思い出しながら話すと、翔太は興味を失う素振りも見せずにそれを聞き続けていた。時間を忘れてしまう程に二人は夢中になっていたのだ。だがそんな二人だけの空間はいつまでも続かなかった。  老人と翔太の座るベンチに、ブランコで遊んでいた三人の少年が近づいてきた。翔太に何度も視線を向けていたあの少年が口を開いた。 「おい、お前! ここら辺のやつじゃないだろ。ここはオレ達の縄張りだからどっか行けよ!」  そうだ、そうだ、と取り巻きの二人が口を揃えた。 「縄張りって?」  不思議そうな翔太に少年は続ける。 「だから、お前、よそ者だから外で遊べって言ってんの。妖怪手なしじじいなんかと仲良く話してさ、気持ち悪いから早く出て行けよ」  翔太が老人を見ると、老人はただ笑っていた。翔太は子供ながらに気付いていた、老人は楽しいから笑っているのではないことに。頭が、体が熱くなるのを感じていたのに、翔太は立ち上がることができなかった。年上の三人に囲まれて恐怖を感じていた。  老人がゆっくりと立ち上がって、言った。 「ほらほら、もう止めなさい」 「うるせえよ、じじいはすっこんでろ」  喧嘩を仲裁する老人の左手を少年が叩いた。しかしその時、少年の手首が老人の義手に絡まって、老人は前かがみになってそのまま地面に倒れてしまった。  翔太の体が自然と浮いた。そして足元に落ちていた木の枝を持って、少年と老人の間に立つと、剣のように構えて叫んだ。 「止めろ! おれが相手だ」  少年は苦笑し、言った。 「なんだよ、チビ。お前誰だよ」  翔太は小さな胸を一杯に張って、言った。 「おれは……勇者だ!」
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