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空気を凍らせた一秒後、すぐに少年は大きな声で笑い出した。そうして翔太の持っていた枝を掴んで、折った。
「勇者さん。剣が折れてしまったようですが、それでどうやってオレ達と戦うのでしょうか?」
少年の言葉に、翔太は閉口し、奥歯を噛んだ。少年達よりも二回りも体の小さな翔太は、あまりにも無力であった。取り巻きの少年達が嘲笑する。
「あはは、とんだ勇者様だ。ゲームのやりすぎじゃね?」
「剣がダメなら魔法でも使ってみろよ」
翔太に立ちはだかる少年もその言葉に便乗した。
「それいいな、魔法だってよ。ほら、勇者なんだろ? 火でも水でも雷でも、何でもいいから出してみろよ。ほら、早く、ほら!」
翔太は目一杯に涙を溜めていた。なおも少年が畳みかけるように言い放つ。
「ほら泣くぞ。すぐ泣くぞ。泣き虫の勇者なんているもんか」
倒れていた老人がやっとのことで顔を上げ、翔太の両手に握られた折れた剣を取り上げた。
「翔太君、大丈夫だから。お爺ちゃんは大丈夫だから」
老人は跪きながらも、自分の背に翔太を誘導するように翔太の手を引いた。だが、翔太は微動だにしなかった。微動だにせず、涙を落とすこともなく、少年からかくまうように、老人の目の前に背を向けていた。老人はその小さな背に、亡き武雄兄ちゃんの背中を見ていた。
その刹那、風が止んだ。翔太はポケットの中のクマツヅラを右手に握ると、
「おれは、勇者だーーー!」
そう叫んで、クマツヅラを少年達に投げつけた。それは少年達の服をかすめて、後方へとばらまかれた。その瞬間、周りの木々が一斉にざわめいて、揺れた。
「なんだなんだ」
「風の魔法か?」
何事かと騒ぎ出した少年達が一斉に顔を上げる。バサバサ、ガサガサ、と木々の枝が大きく上下する。木々の怒りを連想させるかの如く、その揺れと音は次第に大きくなっていき、木の葉を落とし始めた。そして、一斉に羽ばたいた。何十羽という数の鳩が一斉に飛び立ったのだ。
「なんだよ、鳩じゃねーかよ。驚かすなよ」
そう言った少年の顔に鳩の糞がペチャリと落ちた。ペチャ、ペチャ、と取り巻きの二人にも落ちた。
「うわ、きたねえ。くそ、早く洗いに行こうぜ」
三人の少年は翔太と老人のことなど忘れ、背中を丸めてその場を去っていった。
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