恨み

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「黙れ!」  立ち上がろうとする市川を俺は押し倒し、馬乗りになる。そして、市川の首に手を掛けた。 「何、を……」  苦しそうにする市川。俺の腕を両手で掴んで引き離そうとするが、俺は両手に込めた力を緩めない。どんどん市川の首を締め付けていく。 「てめぇなんか殺してやる!」  俺の理性は吹き飛んでいた。怒りに身を任せ、ただ市川を殺すことしか考えられなくなっていたのだ。  あともう少しで殺せるんじゃないかと思ったその時。  突然、目の前の景色が切り替わった。  手には市川の首の感触は伝わって来ない。市川の姿はもう無くなっていたのだ。それもそのはず、俺は世界線を移動させられたのだ。殺す前に、あいつに能力を使われてしまったのだ。  目の前に広がる景色は、現実離れした不思議な景色。見たことの無い建物。道行く人々はファンタジーの世界にいるような不思議な格好をした者ばかり。パラレルワールドというより、むしろこれは異世界だった。  ちっ、殺し損ねた!  俺が首絞めのポーズのまま悔しがっていると、近くにいた黒い鎧に身を包んだ男性が話し掛けてきた。 「お前、急に変なポーズ取り出してどうした!? それにお前、いつの間に着替えたのか!? てか見たことの無い格好だな!」  その男に続いて、白いローブに身を包んだ女性が話し掛けてくる。 「ねえ、勇気。そんなことしてないで早く魔物討伐に行くよ」  魔物という単語が出てきた。本当にここはファンタジーの世界なのか? パラレルワールドにしては分岐の仕方が凄まじいな。  おそらくだが、この世界線の俺は異世界転移でもしてしまったのだろう。この世界がパラレルワールドなのは不自然だ。
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