鈴蘭姫と少年

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 昔、とある城でお姫様が産まれました。王様とお妃様はお祝いをすることにしました。鈴蘭のように可愛らしいお姫様だったため、王様たちはお城にたくさんの鈴蘭を飾りました。そしてたくさんの人を呼びました。  この国には魔女が二人いました。白の魔女と黒の魔女です。二人もお祝いに誘われ、使い魔を連れてお城に行きました。人々はご馳走を食べて歌い、魔女たちもワインを飲んで楽しみました。白の魔女の使い魔のネズミは、焼きたてのパンを頬張りました。黒の魔女の使い魔のカラスは、鈴蘭の花が浮かんだスープを飲みました。  しかし鈴蘭は強い毒性のある花だったため、使い魔のカラスは死んでしまいました。怒った黒の魔女がお城に呪いをかけました。 「城にいる者たちよ、私の大切な使い魔を殺した鈴蘭に囲まれて死んでしまえ」  黒の魔女の魔法は強く、鈴蘭が城の床を突き破って咲き始めました。王様たちは泣きました。白の魔女は王様に言いました。 「私の魔法で誰か一人なら守ることができるかもしれません」  王様とお妃様は、産まれたばかりのお姫様を守って欲しいと願いました。白の魔女はお姫様に杖を振るいました。 「お姫様を鈴蘭にします。彼女は花のように白く美しい肌に、瑞々しい葉のような緑の瞳。けれどその血も、涙も、鈴のような甘い声も鈴蘭の毒と同じ。彼女は人の姿をしながら、鈴蘭になるのです」  白の魔女は続けました。「これならお姫様は鈴蘭の毒で死にません」  それから産まれたばかりのお姫様を除いて、お城にいた人は死んでしまいました。白の魔女も生き残り、お姫様を育てましたが、彼女が十歳を越えたあたりで死んでしまいました。  それから数年後、お城は鈴蘭姫が住むと言われるようになりました。鈴蘭姫のお城は、庭にも花瓶にも鈴蘭がたくさん飾られていました。しかし鈴蘭は毒性が強く、触るだけで肌がかぶれ、花粉を体内に取り込めば死んでしまいます。そのためお城には鈴蘭姫一人だけが住んでいました。  鈴蘭姫はお城の外に出ることも考えましたが、小さい頃に森へ出たとき、森が鈴蘭だらけになってしまったことがあるため、お城を出るのをやめました。それにお城にはときどき来客があるので寂しくはありませんでした。お城に鈴蘭が多く、城に来る人間はみんな死んでしまいましたが。  あるとき、少年が迷いこみました。彼はたくさんの国を旅していたようで、鈴蘭姫は少年から話を聞きました。異国の料理や景色の話はどれも新鮮で、鈴蘭姫は少年の話をずっと聞いていたいと思いました。  しかしとっぷりと夜が更けた頃、少年の具合が悪そうなことに気づきました。本当はもっと話を聞きたかったのですが、鈴蘭姫は休むように言いました。咳が酷かった少年のために、なるべく鈴蘭の少ない部屋に通してあげました。  翌日、少年が鈴蘭が咲き誇る庭にいたので、朝食に誘いました。少年は昨日よりも咳が酷くなっていました。 「具合が悪そうね。お話をしてほしかったけれど、今日は休んでちょうだい」 「すみません」  少年の部屋に温かいスープを持っていきました。少年はお礼を言い、温かいベッドで眠りました。  朝、鈴蘭姫は朝食を摂りながら少年の話を聞こうとご馳走を用意しました。しかし客室に向かうと、少年が見当たりませんでした。鈴蘭姫は彼を探しました。エントランスに向かうと、一人の男が城の中に入ってきました。 「俺の兄さんは鈴蘭姫に殺された。お前は化け物だ」  男は剣を持っていて、鈴蘭姫にその切っ先を向けました。鈴蘭姫は恐怖で叫び、その場から動けませんでした。  しかし剣が振り下ろされるとき、目の前に壁ができました。いいえ、それは少年でした。  剣で胸を斬られた少年は「化け物は自分だ」と言いました。「僕の血に触れたものは毒で死んでしまう」少年の血には毒があったのです。そして鈴蘭姫を守るために、人間の剣を受けました。人間は少年の血を浴びて死んでしまいました。  助けようと手を伸ばした鈴蘭姫を、少年は止めました。 「触らないで。このままここに放っておいて。……きみを守れてよかった」  鈴蘭姫は感謝の気持ちを込め、少年へキスをしました。そして、彼の隣で眠りました。  少年の血からは黒い鈴蘭が咲くようになりました。そのため、お城には白い鈴蘭と黒い鈴蘭が今でも咲いています。
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