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落ちこぼれ勇者の受難
リベンジ屋って知ってるか? リベンジャーの当て字じゃない。ましてや便利屋のアナグラムでもない。文字通りリベンジ屋だ。
王都トホホギスの裏通りを歩いてみろ。その手の落伍者再生請負人が所狭しと店を開いているぜ。
派手な看板を掲げる大手もある。やってることは採用面接と当たり障りのない斡旋だ。だいたい三流四流の民間ドラゴン駆除業者につなぐ。
矢折れ、刀尽きた勇者…勇者ってレベルじゃないがな。落ち武者だ…はボロボロの戦歴証明書とペラッペラな紹介状を持って門をたたくんだ。
それで法外なマージンを取って五流六流、下手すりゃ二十六流の末端業者に売り飛ばされる。そこで僅かな装備と金貨を貰って廃鉱山のスライム潰しさ。
冒険者組合ねぇ。そういうロマンとスリル溢れるサクセスストーリーもあったさ。俺の爺さんの爺さんの四代前の爺さんが生まれるずっと前の話さ。
王立騎士団がここいら一帯を平定してから、冒険者組合はお取り潰しになった。目の上のたん瘤なんだとさ。
リチャードは想像していたより遥かに厳しい現実を目の当たりにしてバスタードソードを取り落とした。
刀傷を見せて自己アピールの真っ最中だったのだ。藩士ジョセフソンは平定戦争でそこそこ名を馳せた英雄らしく、引退後は目抜き通りからちょっと外れた場所に道場を構えている。
弟子にしてもらえる、と意気込んだリチャードは、まだまだ青二才だったようだ。
「はぁ…そうですか。僕が世間知らずでした。出直してきます」
気力を振り絞って、泥のついた愛刀を拾い上げる。丁寧にマントで汚れをぬぐい、鞘に納める。
「まだ、若いのに。惜しいね」
ジョセフソンは一挙一動を見守りながらこうつぶやいた。
「何が惜しいんです? 僕は論外なんでしょう」
不貞腐れたように言うリチャード。
藩士はそっと彼の肩に手を当てる。
「その腕だ。その腕の使い道を間違えさえしなきゃ、世の中を渡っていけるのに。実に惜しい」
「ですから、何なんです?」
もったいぶった言い方にリチャードが憤慨した、その時。
ジョセフソンの口から鮮血が垂れた。そのままカッと両目を見開いて、前のめりに倒れる。
「ちょ…ジョセフソン先生!」
百貫はあろうかという巨体をリチャードは支えきれない。どしん、と地面にしりもちをついた。
「うわっ! 血?」
背中に一本の矢が深々と刺さっていた。
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