君はモンスター

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 その異様な光景に一瞬俺も叫び返しそうになって慌てて手の甲で口元を抑え必死に悲鳴を飲み込んだ。    ベッドを挟んだ向こう側でこちらを向き立ち尽くす女。  その姿はまるで呪怨に出てきた、あれ? 違う、あの真っ白な子供と出てきた?  どっちでもいいが、そういう!  長い髪の毛をダラリと垂らし、顔半分を覆ったその髪の毛の合間からはフルフルと震える大きな目玉。  白いキャミワンピの女が幽霊のような形相で俺を見下ろしているのだ。  恐ろしいとしか言いようがない、でも。 「ッテエエエエエな、日菜(ひな)! 何しやがんだよ!!!」  痛む鳩尾(みぞおち)を抑えながらベッドに這い上がる。  背中も痛い、どうやらこの日菜(おんな)の強烈な膝蹴りにより、ベッドの下へと落とされたらしい。  まだ事態を掴めていない日菜が首を傾げているから。  ベッド脇のライトを灯すと。 「えっ、何でっ?」 「は?!」 「何で、(こう)ちゃん家?!」 「何でじゃねえわ、それこっちの台詞!!」  ようやっとここが俺の家だと認識した日菜が手慣れたように薄暗い中で部屋の電気をつけて。  キョロキョロと周囲を見渡して、それからしばらく何か考えていたようだけれど。   「お、お久しぶり」  てへっと小首を傾げて俺に微笑みかけてくるのを見ると、どうやら何となくは思い出し始めているらしい。 「酔い、醒めたか?」 「醒めた~! めっちゃ醒めた!」  あはは、とボサボサの髪の毛を掻き毟りながら。 「2年ぶりかな?」  あはは、いや、あははじゃねえだろ。 「残念、1年ぶりだわ」  こちらのため息に気づかないふりしてるのは都合が悪いからだろうな。  多分言う、この後絶対、俺が聞きたくないあの台詞!! 「、洸ちゃん」 「じゃねえよ、待ってねえからな」  ほら、やっぱりだ!! 「またまたぁ、洸ちゃんってば! 待ってたでしょ、! あ、お水貰うね!」  俺の突っ込みはサラリと流し勝手に冷蔵庫を開けて水のペットボトルを取り出す。  まるで実家にでも帰ってきたかのような振る舞いだ。  数あるコップの中からかつて自分が愛用していたマグカップを見つけ出して。 「あった、あった」  なんてそれに水を注いで飲みだしたけれど……。  モトカノ佐倉(さくら)日菜(ひな)。  鉄のハートを持つ女、超スーパーポジティブ。 「洸ちゃん、お風呂入ってくるね!あ、一緒に入る?」 「入らなねえ!!」 「とか言いながら、さっき私の胸触ったくせに~!」  からかうようなその声に枕を投げつけようとした瞬間、ペロっと舌を出して逃げていく、ウザイ。  ……確かに触っちゃったけれど、あれは不可抗力だ!  手を伸ばした場所にたまたまあっただけだ!!  日菜にとっては俺はモトモトモトモトカレ? 一個多い? 少ない?  に別れたはずの恋人がの同棲? いや、同居になりそうな嫌な予感しかない。  何で俺のとこなんだよ、いつもいつもいつも!!!  5時間前にかかってきた電話の主にはいつも世話になってるし。  日菜も世話になった人だし。  恨みはないけれど。  やっぱりちょっとだけ恨む……。  いや、電話に出た5時間前の自分を恨みたい。
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