君はモンスター

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 どうにかこうにかやっとの思いで連れて帰って部屋に上げると。  キョロキョロと不安げに周囲を見渡した日菜は、トランクからおもむろにパジャマらしきものを取り出して。  服を脱ぎだす?!  待て、いくらモトカノでもこれは見てはいけないやつだ、と律儀に背中を向けて目を反らしていると。  その内、衣擦れの音が聞こえなくなった。  やけに静かだ。  恐る恐る振り返った先で見たのは、ベッドに潜り安らかな寝息を立て始めている日菜の姿。  は? もしもし、そこ俺のベッドなんですけれど?  何無防備に着替え始めて、勝手にベッド入っちゃってんの?  バカなの? いや、バカだとは知ってたけれども。  (モトカレ)の姿は見えませんか? 見えていませんか?!  ベッド脇に立ち見下ろした寝顔には無防備とでも書いているようだ。  マジックでそう書いてやろうか?!  俺さ、腕も腰も痛いの、何でか知ってる? 誰のせいか知ってる?  大きくため息をつくと頬をポリポリと掻き毟って、ウルサイとでも言うように寝返り打って背中をこっちに向けた。  ……何か、腹立つな?!  仕方ない、一先ず誰かのせいで汗だくになった俺だけでもシャワー浴びないと。  話は明日だとヨロヨロと寝るまでのルーティーンを終えて日菜の隣の狭い空間へと身体を滑り込ませ横になったのだ。  そうして冒頭の丑三つ時事件へと話は繋がる。   「で、りゅうくんは?」 「……、わかんない、多分もう新しい彼女を家に入れちゃってるかも」 「え? もう?」 「……多分、きっと、考えたくないっ!!」  泣きながら二本目のサワーを取りに冷蔵庫に向かうのを止めさせて代わりにスポーツドリンクを手渡した。 「ねえ、洸ちゃん、私の何が悪いのかな? 見た目? は割とイケてるでしょ? 多分」  ……、すげえ自信だな、オイ、否定はしないけれど。  日菜は大学時代ミスに選ばれたくらいだ。  見た目は確かにいい。  俺だって一目惚れした。  長い栗色の髪にはパーマがゆるりとかかっていて、色白の肌、大きな目は少し垂れ気味で笑うとえくぼが出る。  プックリとした形良い唇をちゅうっと尖がらして上目遣いでもされたらほとんどの男はイチコロだろう。  身体的特徴で言えば、出るとこ出ているワガママボディ、確か胸のサイズはFだ! どうだ、羨ましいだろ? もう俺のじゃねえけど……。  要は見た目だけなら絶対的にモテるはずだ、現に男を切らしたことがあまりないと思う。  だけど、中身がなあ……。 「何が悪かったんだろうね」 「何って」  そりゃ、オマエ。  どんなにどんなに可愛くたって。  料理がクソマズい時点で評価が下がる。  洗濯物、何でもまとめて洗うから色柄物は白にうつしただけではなく。  何回ティッシュも洗って黒地にちっちちゃなドット作ったことか、ほらまたマイナス評価だろ?  掃除機に何吸わせれば壊れるんだ?! とか最早意味不明事件時々起こすし、わざとじゃなくても三台壊されたらそりゃあ誰だって頭にはくると思う。  それでも可愛いから、最初はじゃあいいよ、オレがやったげるよとなるわけだ、きっとどんな男だって日菜にかかれば。  ただ日菜の場合は本当にそれに胡坐をかいて何もやらなくなる。  家事をしている彼氏の側でやるのはゲームだけ!! 「ありがとー!! 今日のご飯なあに?」とチラッと一瞬だけこっちを見て、ニコニコしながらゲームの前から離れない。  そんなのもう彼女じゃない、ただの同居人、いや顔がいいだけの居候だ。  そんな女誰が愛せる?  その内日菜のことを、愛せなくなって他の女に走った俺を覗くモトカレたちにちょっとは同情してしまう。  悪かった、最初に日菜をそうやって甘やかしてしまったのは間違いなく俺だ。  責任は少しはあると思う、から。 「行く宛てねえの?」 「……あると思う?」 「多分、ない」 「ぴんぽーん」  嬉しそうにぴんぽーんじゃねえんだわ、女友達もいねえもんな、いるのはゲームで知り合ったオンライン友達だけだったもんな。 「取り合えず話合うか」 「話?」 「そ、大事な話だ」  どうしたら日菜が返品されなくなるのかという話。
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