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「ねえ、梓はさ、花言葉って調べたことある?」
「花言葉?」
「そう。花にはそれぞれ象徴的な意味をもたせる為の言葉があって、その一つ一つを『花言葉』っていうんだよ」
「そのままだな」
「何、その言い方。人がせっかく説明してあげたのに」
花言葉の起源と云われているのは、十七世紀頃のトルコが発祥の地とされ、『花に思いを託して恋人に贈る』という風習からなのだそうだ。
これが後にヨーロッパ中へと広がり、各国でその花のイメージから国の独自の花言葉が出来上がり今に伝わっているのだと、以前に母が説明していた。
母からもらったポプリに使われている花の名前を調べると、リンドウにガーベラ、トルコキキョウといった比較的花びらが大きく一般にもよく知られている種類と共に、それぞれに応じた花言葉がネットの検索結果に表示されていた。
結果を見た時『やっぱりな』と、思わず口から声が洩れた。
母は決して意味のない贈り物をしない人だ。
俺がもらったこのポプリにも、必ず何かしらの意味が込められている。
それはきっと見た目の可愛らしさやオシャレに注目するのではなく、中に使われている花に答えが隠されている。
花屋の息子なのだから、これくらいはきっと気付いてくれる筈。
そんな母の言葉が耳にハッキリと聞こえてくるくらい、想像するのに難しいことではなかった。
「で、その花言葉がどうしたんだ?」
「ああ、うん」
梓に改めて話を戻され、俺はバッグからポプリを取り出し顔の前に近付けた。
「これ、何の花が入ってるか分かる?」
「えっ、いや、あの……ちょっと俺には難しい問題かと」
「だよね。俺もそう思った」
「そう思ったならわざわざ聞くなよ」
「これはさ、『勝利』って意味が込められたポプリなんだよ」
「勝利?」
「そう。希望に満ちた勝利のポプリ。俺のバスケに対する願掛けっていうか」
リンドウの花言葉は『勝利』だ。リンドウの根が東洋医学に用いられる漢方の原料であることから『病気に勝つ』という意味と、上を向いて咲く花の姿から『確信した勝利』という意味が由来となっているらしい。
対して、ガーベラとトルコキキョウの花言葉は『希望』。その花弁が様々な色や形を成すことと、その場にいる人々の気持ちを明るく前向きにさせることにちなんで付けられたガーベラと、口が開いたように花元から段々と開いていく花の姿が『良き語らい』という意味をもっているトルコキキョウから、それぞれ付けられた言葉だそうだ。
どちらも前進的で向上心をもたらすような花言葉。
殊に、勝負事に関してはこれ以上に相応しい言葉は他にないだろう。
例えその場に立ち止まりそうになったとしても、その花の香りは背中を押して前へ進ませる原動力にもなる。
花は必ずしも女性だけが楽しむものではない。
バスケが好きな男子高校生だって、それを持って憧れを追えば、きっと必ず現実へと昇華するから。
「俺さ、梓、次の大会で絶対にレギュラーを獲ってみせるから」
手の中にあるポプリを掴み、それぞれの花から伝わる言葉の意味をその身に改めて刻み込んだ。
「だから、俺にポジションを奪われないように、梓もちゃんと練習しろよ」
次の大会まではあと一ヶ月。もたもたしている時間は一切ない。
勝利と希望の花。母がくれたその言葉は、俺の目標を後押しする目には見えない強い力。
それなら俺はこのポプリに込められた願いと共に自分の目標も叶える為、兄と同じ公式戦のコートに立って同じ景色を必ず見てやろうと思う。
憧れだけでは、きっと終わらせない。
強い想いは、自分を真っ直ぐにその道へ進ませてくれるから。
「ポジションを奪われるって……、理玖の場合はレギュラーを獲るより身長を伸ばす方が先決なんじゃないか?」
「はぁッ? 何それムカつく。この前言ってたCD、もう梓には貸してやらないから」
「えっ! ちょっと待て、それは勘弁……っ」
叶えたい夢がある時、願掛けの方法は人によってそれぞれだ。
神社に行って神様に願うもの、勝利飯を食べて験を担ぐもの、揃いのものを身に着けておまじないをするもの、何もせずにただ自分を信じてやるべきことをやるもの。
どんなものでも間違いではないし、どんなものでもきっとその人なりの効果がある。
ポプリに込められた花言葉を携えて、憧れを現実へと変えていく。その現実を一過性のものにするのもしないのも、これからは全て俺自身なのだ。
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