荒涼の地と賊の王

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 西日の赤と荒ぶる風を突き破る如く、その一団は村に迫ってきた。  ひと塊だった姿が細かく明瞭になるまで接近してきた時、用心棒は語り部にすぐさま告げた。 「ゼロ、ここは言う通り退きましょう」  だが語り部は頷きもせず、一団を大きな黒い瞳で見据えている。 「いいえノア、わたしはやはり()と話しがしたくなりました。語り部としてのわたしの定めが、そうするべきであると告げるのです」 「しかし嫌な予感が……」 「わかっているわ。だけど恐らく、この地に来た時点で、この遭遇は定められていたかと」  一団が、村に入ってきた。  賊だと、一見してわかる者たちだった。  先頭を行くのは二頭の馬にそれぞれ跨がった、武装した男だ。  その後ろに続くのは幌の無い馬車のようなものだが──馬ではなく、異様に大きな二頭の狼が牽いている戦車らしいのだ。それだけでこの一団の異質さを感じさせた。  その戦車の後に更に数頭の馬に跨がった賊の男たちが続く。  戦車上にいるの男が何も合図せずとも、賊たちの整然と横並びになり、馬から降りる。それぞれ馬に括り付けた、両腕で抱えられる程度の木箱を下ろし始めたい。  村人たちが賊に近づきだし、木箱が賊から彼らへと受け渡されていく。 「これは、一体……」  用心棒が戸惑いの色を晒した時、戦車上からよく通る男の声が発せられた。刃で西日でも風でも貫くような、鋭さを持っていた。 「その者たちはなんだ。新しい者か?」  その声で語り部と用心棒はようやく、戦車上の男を見据えた。  男が戦車上で立ち上がる。  西日の赤を血みどろのように受けながらその男は、両腕を組み、黒いマントを影のようにはためかせていた。  黒い髪に、右目は赤、左目は青。面構えは引き締まっているが、皮膚はそれに不釣り合いに青ざめている。  大振りな剣を腰に携えており、賊というよりも将に見えた。 「ノア」語り部が寄り添い、囁いた。  男が戦車から降りてくる。 「あの男──魔物です」  用心棒は瞠目した。 「なんと……! しかし、あのように極めて人に近い姿かたちは……」 「事情はまだわかりませんが、めずらしいことだと思われます」
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