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「おい貴様たち、答えよ」
男が近づいてくる。
「ああ、イグナシオ様」
あの中年の男が木箱を両腕に、イグナシオと呼ばれた男に跪いた。
「その者たちは先程ここに来たばかりでして、その──語り部と、従者だとのことです」
「語り部、だと?」
イグナシオの両眼に、魔物特有とでもいうような、飢えた光が兆した。
用心棒はマントの下に手を入れる。いつでも剣を抜けるよう、柄に手を掛ける。
「どちらが語り部だ?」
「わたしです」
語り部は臆さず名乗り出る。
男も名乗った。
「我が名はイグナシオ。この地の支配者なり」
用心棒はその直接的な表現に戸惑う。
「本当に語り部なのだな。嘘偽りは断じてないな」
「はい」
「我は語りを所望している」
イグナシオの語り部への舐めるような視線に、用心棒は気付いていた。
「だがそれ以上に──語り部そのものの所有を望んでいる」
用心棒は表情を歪ませそうになるのを堪えた。間合いを、既に図り始めていた。
「語り部よ、これより我のものとなり、語りを捧げてもらおうか」
動こうとした用心棒を、語り部は静かに制止した。
「あなたは魔物──ですね?」
「それがどうかしたか」
「そのように存在しているということは、浮かばれないのですね」
死して浮かばれぬ者の魂はこの世界では、何かしらに取り憑き魔物となる。魔物は餓えから肉を喰らい、生きてる人々を脅威にさらしている。
魔物には、語り部にも関係するある特徴がある。
語りを聴かせると、何故か餓えが満たされるのだ。
故に語り部と魔物にまつわる物語は、各地にあった。
「我は浮かばれるつもりはない。この魔性の生を、死に至るほど貪るのみ」
「魔物としての己を意識し、あくまで肯定していると」
「その通りだ。だがこの頃、肉というものに倦んできてな。だから語り部──その身をいただくぞ!」
イグナシオに動きがあるのと、用心棒の頭に血が限界まで登るのとは同時だった。
双方同時に剣が抜かれ、ぶつかり合う。
用心棒に、想定以上の力が伸し掛かる。まさに魔物の、人間離れした力だ。
「ゼロ、逃げてください!」
叫ぶが、語り部は首を横に振る。
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