荒涼の地と賊の王

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「駄目です。あなたを置いてはいきません」 「くっ──」  イグナシオは大振りな剣を、片手で軽々と振るい、連続して攻撃を浴びせてくる。  用心棒は守勢だ。  大きな一撃により僅かによろけ、生まれた隙を突かれた。  回し蹴りが繰り出され、横っ腹にそれを受けた用心棒は、本人も信じられないほどに飛んだ。 「ノアっ!」  転げた用心棒にすぐさま追撃が来る。断頭でもするかの如く振り下ろされる剣を、転がってかわす。  だが劣勢が覆されることはなかった。  立て直した用心棒の剣は、次の一閃で宙を舞った。刃が西日を弾いてから、地面に刺さる。 「跪け」  剣を突きつけられ用心棒は、歯噛みし両膝を折った。  村人たちが固唾を飲んで見ている中、イグナシオは無力化した用心棒の鳩尾に強烈な蹴りを見舞う。  用心棒は呻いて倒れる。  そのまま飽きたとでもいうように、イグナシオは語り部へ向かった。 「あなたが語りを所望するというのであれば、わたしは語りましょう。しかしわたしは誰のものでもありません。語り部であるが故に、誰の味方でもありません」 「拒否はできんぞ」  イグナシオは、語り部の腕を捕まえる。 「おい」  そしては部下たちに命じた。 「そっちの用心棒はもう少し痛めつけてから、そこらの樹にでも縛り受けておけ」  部下の賊たちが用心棒に群がりだす。 「やめなさい!」  語り部が、彼女にしてはらしくなく声を荒げた。  イグナシオはその腕を乱暴に引いて彼女に顔を近づけると、口の端を吊り上げた。 「愉しい夜を期待しているぞ」  一方用心棒は、痛めつけてられながらも、敬愛する相棒へと手を伸ばそうとした。 「ゼロっ、ゼロっ……!」  抗おうとする彼に、容赦ない制裁が加えられる。  やがて彼の目の前は、一気に西日が落ちきったように、暗黒に染まっていった。
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