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用心棒は抗いを一旦止めて、黙って聞くことにする。
「この不毛の地を見ただろ。誰もこの地なんて相手にしてねえ。端っこをちょっと通りかかるだけだ。だからここはゴミ溜めにちょうどいいのさ」
まだ話が飲み込めず、用心棒は黙し続ける。
「ここは脛に傷がある奴の集まりなんだよ」
「なる……ほど……」
「あの王様はどういう訳かそういうはぐれ者が大好きでな。この地を通りかかる商隊とかを襲っては、俺たちに施しをしてくれている訳さ」
「だが魔物だ……」
はっ、と男は用心棒を馬鹿にするように笑った。
「そんなんみんな知ってて頼ってるんだよ」
この地のことが理解できたところで、用心棒は相棒のことを諦めるつもりは毛頭もなかった。再び藻掻く。
「それでも私は、ゼロを、助けねばっ……!」
「王様は語り部にご執心だ。満足してもらえるまで、兄さんは大人しくしてろ」
「断る!」
用心棒は強く吠えた。
男の表情に一瞬、揺らぎがあった。
「語り部の生き方に共鳴し、あらゆる危険から守り抜くのが守護者の務め! 私はなんとしてもそれを果たす!」
男は呆れたような顔をして、首を横に振った。
「縄を解け!」
「無理だよ。俺だって自分の身が可愛いんだ。それに兄さんじゃ魔物である王様に挑んでも勝てんだろう」
「それでも私は行く!」
「全く……若いねえ。俺には無いものだ」
男は顔を近づけてきた。
「あれに挑むなんて、本当に死ににいくようなもんだぞ?」
「気持ちは変わらない!」
男が腰からナイフを抜いた。
用心棒は、男から瞬時に溢れる気を感じた。闘う者は刃を持てば、嫌でもこの気を出すのだ。
「困った兄さんだ……」
低い声でゆっくりと吐かれた台詞が、用心棒に緊張をもたらした。固くした身は決して諦めてはいなかった。
ナイフが光る。
用心棒は歯を食いしばった。
「…………ほらよ」
縛めがするりと、足元へ落ちた。
「なっ……」
驚く用心棒を尻目に、男はナイフを仕舞って背を向ける。
「俺はリガルド。元用心棒にして、今はどうしようもないゴミだ」
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