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番外編〜2つのぬいぐるみ〜
僕のベッドの枕の横には、シロナガスクジラのぬいぐるみが置いてある。
中学3年の時、同級生のいじめから救ってくれた僕のヒーロー。白永君。
残念ながら振られちゃったけど、今でも僕には大切な思い出だ。
白永君は、シロナガスクジラみたいに、大きくて、優しかった。
高校3年間は、僕は目立たないように過ごした。伊達眼鏡をかけて、生まれつき明るめの色の髪をあえて黒く染めた。
おかげで、いじめられることもなかったけれど、友達らしい友達も出来なかった。
大学も、取り立てて面白いことはない。
「むなしい」
ボソッと呟いたら、「何が?」と、頭の上から返事があった。
電車の中、見上げるほど背の高い彼は、白永君にどこか似ていた。
「君、いつもつまらなそうにため息ついてるね。そんなにかわいい顔してるのにもったいない」
「お兄さん、誰?」
「俺は君の通う大学に勤めてるサラリーマンだよ。庶務課にいるから、今度寄ってみて。時間があればお茶でもご馳走するよ」
白永君にどこか似ている庶務課のお兄さんと、付き合い始めたのはそれから間もなくのこと。
僕のベッドには、2つのぬいぐるみが置いてある。
一つはシロナガスクジラのぬいぐるみ。
もう一つは、灰色クマのぬいぐるみ。
お兄さんの名前は、熊野さんって言うんだ。だから、灰色熊のぬいぐるみ。単純だけど、2つのぬいぐるみは、僕の宝物なんだ。
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