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インタビューはそこで強制終了してしまった。何故なら二人ともその瞬間、締め出すように押されて報道陣という塊から追い出されてしまったからだ。ジェームズが振り返った時、ケンジは各国の記者ーーー米国、日本、フランス、ドイツ、イタリアの映画雑誌記者は勿論のこと、英国の他雑誌記者にあっという間に取り囲まれるところだった。
「起きろジェームズ」とサイモンが腕を引っ張った。「ケンジの言葉を聞いただろう。日本人は皆、自己分析が下手だが彼もその例に漏れん。やはり演劇学校でケンジを教えていたミセス・ヨランダ・ジョーンズに話を聞くのが良いだろう。顔は覚えているか? 彼女を探すんだ」
「は、はい」
アカデミー賞授賞式には一般客は入場を許されず、そう見えるなら招待客だ。しかしドルビー・シアターは沢山の俳優やそれを囲む世界各地からの報道陣でごった返している。盛況は混乱の面の顔でもある。盛況の中を人を探して歩くというのは不安があった。ジェームズは早くジョーンズ講師ーーーいや、今は校長だーーーを見つけたくなった。
「あっ!」とサイモンが声を上げた。その声に小さな姿が振り返る。壮年の女性ーーー厳しそうで、しかし温かみのある銀髪の女性、ヨランダ・ジョーンズ講師だ。彼女に人だかりはまだ無い。一番乗りで良かった。
「ミセス・ヨランダ・ジョーンズですね?」とジェームズは話しかけた。「『エンパイア』の者です。インタビュー、よろしいでしょうか?」
「ええ、勿論」とジョーンズ校長の背筋がバレリーナよろしくぴん! と伸びた。
「ケンジは貴方が校長を勤める演劇学校の生徒でしたね」
「ええ。でも彼が居たのは一年間だけ。彼にあそこは狭過ぎた。私は王立演劇学校の入学を進めた。決して遅いスタートでは無かった。ケンジは自分はそんな器では無いとかなり嫌がっていたけど無理やり出させた。その結果がこれよ」とジョーンズ校長はふっとそよ風が吹くように、微かに微笑んだ。
「どうしてそんなことを?」とサイモンが食いつくように質問した。「その時からケンジは実力を発揮していたと? それなら演劇学校に入学した当初からケンジは目立った存在だったんでしょうね……」
するとジョーンズ校長はさもおかしいと言うように笑い出した。「とんでもない。学校に入ったケンジは全く目立たない存在でしたよ。あの時の私が一年後の王立演劇学校の推薦状を書く私を見たら信じられないと絶句したでしょうね」
その言葉にジェームズもサイモンも絶句した。
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