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そもそも、最初に確認しておくべきだったのである。
何故自分の前任管理人は、突然この仕事をやめたのかを。
そして管理会社が、藤本さんの言葉を“妄言”と半ば決め付けていたのかを。
『ああ、言い忘れてたね。橋口ってのは、十年くらい前に住んでた人の名前。名簿から毎回消して印刷しようとするんだけど、なんでか毎回名前が残っちゃうんだよねえ。うちのパソコンも古いから、バグってるのかな。まあだから、そこは誰も住んでないし、空室だよ』
翌日、問い合せた俺に対して。管理会社の担当であるハゲ頭は、それはそれはもう呑気にのたまってくれたのである。
『ガムテープ?そんなことしてないよ。一体誰のイタズラかなあ……ああ、もしかして前任君かも。彼、欝になってやめちゃったから。のんびりした仕事だと思うんだけど、一体何がダメだったのかねえ』
あの大きな物音。何かが暴れるような音には、明らかに――人の骨が折れたり、殴るような湿った音が混じっていた。
あの部屋で一体何があったのか。藤本さんが出会ったり、俺の電話に出た若い女性というのは一体何であったのか。
残念ながら――答えは見つからないし、探したいとも思えない。
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