祈りを込めて、あの子は翔んだ。

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祈りを込めて、あの子は翔んだ。

拝啓、お父上殿。  突然、このようなお手紙差し上げることになったこと、深くお詫び致します。ご病気で療養中の身、ご負担をかけること非常に忍びなく存じますが……止むにやまれぬ事情ゆえ、このたび筆を取らせていただきました。  私には、家族と国民以外に愛する者が二人おります。青の国のルミリア姫と、黄の国のローザ姫です。覚えておいででしょうか。かつて我が赤の国と、青の国黄の国は三国同盟として固い絆を結んでおりました。幼かった私は、二人の姫君とは家族も同然の付き合いをしていた記憶がございます。私は恋心というものが未だによくわからぬ未熟者ではございますが、私にとって年下の二人は妹のような存在でございました。弟は二人いても、女兄弟というものがついぞできなかった私にとってはとても新鮮であったというのもあります。  元気で明るく、時にどんな男性よりも勇ましい様を見せてくれたルミリア姫。  ふわふわの花のようにおおらかで、優しく包み込んでくれるローザ姫。  私にとっては、どちらも庇護したい対象と言って過言ではございません。この素晴らしい三国の同盟が、いつまでも続いていけばいいとずっと考えておりました。  ところが、私が十を数える頃にもなると、諸外国の状況は一変することとなります。三国同盟解消の契機となった、あの事件です。青の国と黄の国が、それぞれ我が赤の国と仲の悪い白の国との貿易を隠れて行っていたことが発覚したのでしたね。  お父上は大激怒し、それをきっかけに三国の関係はこじれ、同盟は解消されることとなってしまいました。  かつては国境などないも同然に行き交っていた両国の商人たちは、決められた者以外に道を通ることもできなくなり、国交は断絶に近い状況となってしまいました。私は、愛しく守りたい対象であった二人の妹達と、会って言葉を交わすことも叶わなくなってしまったのです。できることと言えば、検閲を通す上で手紙をやり取りするのみ。ルミリア姫、ローザ姫の手紙が時折黒く塗りつぶされているのを見るのは、私にとってとても悲しいことでございました。  日に日に翳る世界情勢。私は心配になり、お父上も信頼を置く国王直属の占い師であるジュリア氏に、国の未来を占って頂いたのです。  そして、恐ろしい事実を知ってしまいました。  このままでは、三国どころか、世界全てを巻き込んだ大戦争が起きるというのです。そして、世界の人口の七割が失われ、人類そのものが壊滅に近い状況に陥ってしまうとのこと。  にわかには、信じがたいことでございました。しかし、あのジュリア氏の占いが百発百中であることは、お父上もよくご存知であることと思います。お父上がご病気で倒れられることも、母上が落馬して怪我をすることも全て見抜かれたジュリア氏です。今回の占いも、絵空事だと決め付けることは私には到底できませんでした。
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