語り部見習い・ミココ

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語り部見習い・ミココ

「……ふう」  七つ目の語りを終えたわたしは満足のため息をつき、「どうだった?」と同年代の聴衆を見回した。 「…………あれ?」  野外集会場は閑散としていた。夜の闇に聴衆は、いつの間にか溶け消えたかのようだった。  誰もいない。いや正確にはわたしの隣に、アマナちゃんだけが茣蓙に座ってこちらを見ている。大きなジト目が、夜の中でもはっきりと存在感を示している。 「ミココちゃん、みんなもう帰った」 「なんで!?」  わたしは座っていた木箱から立ち上がった。 「一話一話が長いんだもん。しかも七話もやるとか……。まあ私はお語り好きだからいいけどさ」  蝋燭の熱のせいだけじゃない汗が滲んでくるのを感じる。 「え、でも、最後のオヒカリ様のはごく短い……」 「でもあれ定番だからさ、みんなもう知ってる話だよね。ていうか語られる間もなく、うちの村のじゃん」  わたしは唇を半開きのまま震わせて、熱くなる頭を横に振った。 「で、でもでも、わたしあれ好きだから……」 「そりゃミココちゃんは好きだろうけどさ」  さて、とアマナちゃんも立ち上がって、茣蓙を巻く。 「まあ私はミココちゃんのお語り、嫌いじゃないよ。これにめげずに頑張って。んじゃお休み」  一緒に帰ろうとも言わず、アマナちゃんは去っていった。  わたしはひとりで後処理をした。今日は子供たちだけでお語りをしたのだけど、焚き火は子供だけでは危ないからと、代わりに蝋燭を使ったのだ。  その蝋燭すら上手く吹き消せないほど、わたしは打ちひしがれていた。  震える身体で後処理を終えて、木箱片手にひとり師匠の家の道を行く。  三日月がぽっかりと浮かんでる。あれはオヒカリ様が飛んだ高さよりも、より高い位置にあるらしい。月については色んな想像を掻き立てることもあって、たくさんの物語を生んでいる。  月を見てると、自分がちっぽけに思えてくる。いや、じっさいちっぽけなのだ。  わたしはちっぽけな。なんともしょうもない実力の持ち主。  ミココ。わたしはミココ。うだつの上がらない十三才。
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