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朝起きる度に、ああ、また昨日と同じわたしだと嫌になる。
身だしなみを整える為に姿見の前に立つことでもそう思う。
わたしは今日も、いつものわたしとして一日を始めた。
起きたらでっかい虫とか、別のわたしになってないかな、とか考えたことがある。あれ? これ物語しちゃえばウケるのでは?
朝食を、師匠やマルタねえさん、師範代にカハル君といういつもの面々と摂る。
食事中はみな、口数が少ない。別にいいんだけどさ。特に今日は話したいという気分ではないし。
でもカハル君が口を開いた。
「ミココ、昨日は来れなくてごめん」
昨夜のお語りのことを言ってるのだとわかった。
「ううん、別に」素っ気ない返事をしてしまう。
カハル君は一生懸命だから、夜でも剣の修行で忙しいのだ。それを不服に思ったことはない。裏を返せば、わたしのカハル君への関心は、薄いということ。
朝食を終えると、わたしとマルタねえさんは勉強に入る。
午前に学ぶことは読み書き。数多の言語を学ぶ。驚異的な記憶力を持つ語り部にとっては、基本的なことだとされている。
わたしには当然こんなのお手の物ではあるが……今日は昨夜のことで気分が落ち込んでるというのもあって、精彩を欠いてた。師匠に集中してないことを見抜かれて注意された。
この師匠はお婆ちゃんなのにホントに元気だ。そして指導が厳しい。
だからってわたしは、語り部の道を諦めることはできない。
だってわたしには、これしかないから。
この家に来て、師匠から最初に学んだことは、語り部とは何か、ということ。
語り部はこの世界の数多の物語を集め、語り継いでいく使命を持った者だ。
語り部になれる者にはふたつの特徴がある。
ひとつは、驚異的な記憶力。
もうひとつは、相手の目を見て心を読み取る能力だ。
そう、語り部とは特別なのだ。
わたしもその特別のひとりのはず……なんだけどね。
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