空飛ぶ光の物語

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空飛ぶ光の物語

 七本目の蝋燭に、火を灯す。  今宵、七つ目の物語ということ。  汗ばむ首筋に張り付く髪をかき分けて、わたしは息を吸った。  まだあどけないと評された声で、遙か太古の物語を紡ぎ出す。この瞬間に、わたしは酔う。  声に火が、揺れる。 「むかし、むかし。まだ神々が地上を歩いており、人々の目にその姿があった頃──」  わたしの目は正面に向けられているけど、誰のことも見てはいない。大事なのは語ること、そこに集中する。 「このアガナミの地を、ひとつの不思議な光が飛んでおりました。それはこの世のどんな光ともちがった動きをしたので、人々は凶事の前触れではないかと恐れたということです。  色んな神々が、長い腕を何度も伸ばして光を捕まえようとしました。ですが光の速さは、どんな神々も知らないような速さでしたので、捕まえることができませんでした。  アガナミの村の巫女は、この動く光とぜひ触れ合ってみたいと思っておりました。空の高みにいる光にどうやって言葉を届けるか、物見台で考えにふけりました。  巫女は街道が白い筋となって草原を走っているのを見渡すや、ひらめきました。  地面に大きく絵を描いて、光に伝えればいいと思いついたのです。  さっそく翌日から巫女の指揮のもと、村人総出で取り掛かります。  草原の草を刈って、絵にします。  夕刻になって出来上がったのは、巫女が仕える太陽の神の印でした。  そしてその夜、件の光が村の上空に止まりまして、村人たちは大騒ぎです。  光はゆっくり円を描いております。しかもこれまでとは違い、赤くなったり青くなったりしております。  村人たちは皆して槍や鍬を携え、夜空を首が痛くなるほど見上げておりました。  そこへ一筋の、別の光が件の光にぶつかりました。  それは神々の中でも特に悪戯好きの神が、名もなき星を件の光に投げつけたのであります。  光は村外れに落ち、ものすごい音を上げました。  巫女を先頭に村人たちが光の落ちた場所に向かいますと、そこには奇妙なものがありました。  人がひとり入れそうな、大きくて円形でつややかな、変わった形の岩のようでした。  巫女は言います。『これは夜空の星々の仲間なのかもしれませぬ』  結局、凶事など起こらぬままだったこともあり、人々はこの光だった岩を、祠を建てて祀りました。  これが、この村に伝わるオヒカリ様(・・・・・)の由来であります」
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