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かつて教授の従者の見た夢
「__、お前は願いを持つということはないのか?」
男は長時間の論文執筆の疲れからか、戯れに目の前で書類や書籍の整理を行なっている少女の形をした機械に問いかけた。
「『願い』→こうなって欲しいと思う事、およびその事象を他者に委ねる行為。
私にはそのような思考スキームを持ち合わせてはおりません」
『彼女』は直ぐにそのような返答をした。
男は彼女がこのような答えをすることは知っていた。それもそのはず。彼女はその肉体構成から思考プログラムまでこの男の手によって作られているのだから。
「そうか。ならばお前は何を目的に活動している?」
だからはっきり言って、この問答に意味はない。
ただなんとなく長時間の沈黙に耐えられなくなった男が気分転換の戯れに目の前にいたそれに話しかけただけだ。
「私の基礎命令(ベースプログラム)には『主人の安全を守護する』という命令が入力されています。
なので、私の行動基準は『主人の生命の守護、およびそれに付随する肉体の完全性の維持を補助する』ことを定義づけております」
なるほどここまでは予定通りの会話であった。
ここからふと、男は悪戯心によって意地悪な問いをしてみようと考えた。
「ならば問うぞ。もし私が居なくなればどうする?」
「マスターが居なくなるということがある場合、先んじて待機命令がない時はマスターの守護のため、マスターを捜索・追跡いたします」
即答されて男は少々落胆する。
見たかったのは目の前の機械が自分の問いに答えられなくなる所だったのに。
「わかった。次だ。私が死亡した場合はどうする?マスター権限が解除されるか?」
「答えは非(No)。私の基礎命令から定義づけられた行動基準『主人の肉体の完全性の維持の補助』に則り、マスターの遺体を保存いたします」
これも簡単な問いだったようだ。
なるほど、たしかに基礎命令には『生命の守護』が第一に、第二に『肉体の完全性の保存』がある。
これは、『生きていれば何でもいい』などと言う考えで行動されては困るからだ。
だがこの命令を実行すれば『死んでいるなら肉体を保存しなくていい』ということにはならない。
だからこの回答は矛盾がない。
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