かつて機神は従者に願う

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かつて機神は従者に願う

「なぜだ…? なぜ私に刃向かう!  私はお前を作った主人だ! その力は私を守護する為にあるのだぞ!」  男は咆哮する。  かつて自分が作った機械の従者。  それには自分を守護するための戦闘機能が持たされていたが、その一つ、魔力で作られる熱刃によって自らの胸を貫かれている。  これはおかしい。『主人の生命の守護』を第一に置くはずの彼女が自分を攻撃するなどと思っても見なかったのだ。  男の咆哮に対して幾ばくかの沈黙を挟み、彼女は回答を出した。 「…→…→…。  状況の推察をすれば、理論的にあなたはマスターなのでしょう。  しかし、今のあなたは、私を作ったマスターとは違います。私の記憶(メモリー)に存在するマスターの思考パターン、言動パターン、行動基準などが大きく相違します」 「っ!?」 「なので、私はあなたをマスターの肉体に宿る『マスターでは無いもの』として排除いたします」  その言葉の衝撃は、男にとってあまりにも強かった。  男には姉がいた。親のいない男にとって姉は母に替わる最愛の人であった。  自ら作った機械の従者、その姿が少女であったのは、かつて最愛の姉の姿を模したからだ。  その姉の姿をしたものに、『お前は違う』と言われて、男は自分の姿を顧みたのであった。  男には勉学の才があることに気付いた姉は貧しさを言い訳にせずに男を学校に通わせた。  男は自分のために身を切ってくれている姉の期待に応えるため、勉学に励み、優秀な成績を修め続けた。  偶に家に帰り学校からの評価の書かれた通知書を見せる度、姉は我が事のように喜んでくれたのだった。  男にとってもそれこそが自らの生きる意味だと信じて疑わなかった。
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