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男が首席として学校を卒業した日、誇りを胸に故郷に帰ると、田畑は荒れ、家々は壊れており、家に駆け込むとそこには、傷つき、汚れ、毀れた姉の姿をした物だけがそこにあった。
野盗のせいであろう。そのように街の衛兵から聞かされた。
男は心に空いた穴を埋めるため、一つの人形を作った。かつて自分を褒めてくれた姉、幼き日の穏やかな喜びの記憶を形にした。
やがて、男はその人形に動く為の意思を与えた。
しかし目的がなく作られた意思では人形が動かなかった為、とりあえず自分の身を守らせるということにした。
そこからは防犯と悪ノリの産物として、腕や脚に様々な機能が取り付けられたりした。それが使われることは殆どなかったが。
「そうか…私は…、今の私は、お前のマスターには相応しく無くなっていたか」
結局、その従者に男が求めたのはただ『寂しさを誤魔化したい』という願いだけだった。
それが、姉を殺した者の正体を知ったことで『復讐』に変わり、復讐を為すために男は鬼となった。
その姿が、彼女にとっては、自身のマスターと同一人物とは考えられない。という結論になってしまったのだと、それ故に、姉を殺したものへと復讐する鬼となった自分を殺すものは姉の姿を模した機械なのだ。
と、皮肉な答えに男は自らを嘲った。
「だが、私は私だ。まだマスター権限『強制命令権』が残っている」
失意の先に、男が見せた表情は、彼女の知る主人の顔に似ていた。
その口から、何かの不具合(エラー)が起こった際の最終手段として、マスター権限者に与えられる『強制命令権』が初めて執行されようとしていた。
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