甘い微熱

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甘い微熱

 白兎属(はくとぞく)の目は赤いんだ。  でも、目が赤いんじゃない。  透明な眼球のしたの毛細血管が透けるから、赤く見えるだけ。  わかってるよ。  世界が赤く見えてるわけじゃないってのも。  ……でも、もしかして……今おれは赤く染まってみえてない?  頬杖から頭が落ちて、意識が一気にクリアになった。 「よって、この式は……」  黒板のまえで数学の井上が説明している。  二限目あたりから体がだるくなってきてたけど、まさか、直後の三限に居眠りするなんて……史生(ふみお)は自分自身が信じられなかった。眠気を払おうと、ずり下がった眼鏡を直す。  けれど授業に集中できない。ノートに書き移した数式にピントが合わず、ぼやけて見える。  頬に手をやると指先に熱を感じる。寒気はないから、風邪を引いたわけではないだろう。むしろワイシャツのうえに重ね着してきたカーディガンがよけいに感じた。  気づけば白い両耳が、くたんと折れて、兎族たるシンボルが情けない状態だ。  クラスのようすをうかがうと、そんなのは自分くらいで、皆の耳はみごとなまでに室内に林立している。遅れてしまう、ただでさえ数学は苦手科目なのだ。順位が下がると来年は降格、A組からB組へ移らなければならない。そう感じて焦ったせいだろうか。動悸がしてきた。 『何? ……どきどきする。どうしよう、まさかアレか?』  そこまで考えてから、史生は思わず口元を押さえた。 『今朝の薬、飲み忘れた!!』  いや、今までだって飲み忘れはあった。でも何もなかった。そう、何もなかった。けれど、これは……。  焦れば焦るほど、顔が、体が熱くなる。 「委員長?」  斜め後ろから小さく声をかけられ、振り返ると漆黒の瞳が史生の顔をじっと見ていた。  黒兎属(こくとぞく)特有の褐色の肌に黒目勝ちの切れ長の目。ブイネックのベストは着ているけれど、第二ボタンまで外したシャツの胸元からも肌が見える。ワイシャツの袖を肘下まで折りあげ、手首には革紐で編んだブレスレット。瞳と同じ黒い前髪が左目にかかる。  苦手なヤツに気づかれたことに史生は小さく舌打ちした。 「大丈夫?」  何でもない、と言おうとしたとき、真顔で奴は叫んだ。 「先生!!」 「なんだ柳」 「フミ……牧瀬くんが鼻血を!」  とっさにぬぐったてのひらに血がつき、追い討ちをかけるように口の中が鉄錆び臭くなった。あわててポケットから出したハンカチを当てたら、思わぬ早さで血が染み込んでいく。  クラスメートの視線と失笑を浴びて史生は怯んだ。  たぶん、何が起こっているのか皆にはバレたのだ。羞恥心に体がぐらぐらしそうだ。 「ああ」  すべてを承知したように教師はうなずいた。 「保健室に行って薬もらって飲め。誰か付き添い……」 「はい、おれ保健委員です!」  勢い込むように手を挙げたのは、先ほどと同じ柳だった。  最悪……。  史生は恥ずかしさとやるせなさから、うなだれた。 「肩貸そうか?」  史生より十センチばかり上背のある柳結月(やなぎ ゆづき)が廊下に出てから声をかけてきた。  まだ授業中だ。廊下は静かで人影もない。  なんとか鼻血はおさまりつつあるようだが、壁に手をつき、前屈みになっている史生を結月は気遣っている。  史生は首を横に振ると、階段の手すりをつかんで足を進めた。  おぼつかない足取りの史生を見ていられなくなったのか、結月が史生の手首を掴んだ。そのまま強引に自分の首にかけ体を支えた。 「いいって!!」 「ムリ、階段から落ちるよ」  いきなり体に触れられて、思わず悲鳴をあげそうになったが、必死でこらえた。 「アレだよね?」 「なっ」 「発情期」 「!」 「今までなかったんだ。初めて? 高二で」  あっけらかんと言われて史生は膝から力が抜けそうになった。  デリカシーのない奴!!  高二までなかったことを暗に笑われているように感じてカチンとくる。  史生は結月を睨みつけた。 「次の期末、負けないからな……!」 「は? なに急に」  ポカンとした顔で結月は史生をのぞきこんだ。  褐色の肌の整った顔が間近に迫り、史生は目をそむけた。 「髪なんか伸ばして、チャラチャラしてるくせして。真面目に勉強やっても結果のでない俺をバカにしてんのかよ」 「委員長、ヘンだよ。ふだんの優等生ぶりはどこ行ったの? やっぱ発情期のせい?」 「よけいなこと言うな!」  イラつく史生の鼻先を甘い香りがかすめる。甘くて苦くて……ミルクコーヒーみたいな香り。結月の体温と一緒に伝わってくる。  階段を降りきって一階まできた。保健室はすぐそこだ。 「委員長ってさ」 「なん……?」  答えるか答えないかのタイミングで結月が史生の耳に息を吹きかけた。 「っあっ」  今度こそ膝から崩れた。にやついた結月は史生を背負った。  もう悪態もつけないくらい、目が回ってる。 「鼻血で汚れる……」 「洗えばすむから、へいき。委員長、軽いね」  結月は史生を一度ゆすりあげると、保健室へ足を向けた。 『こんなだから、モテるんだろうな』  頭を預けた結月の肩からは、やっぱりミルクコーヒーの香りがした。  史生は小さく小さく、舌打ちした。  保健室に文字どおり担ぎ込まれると校医の狭山は手慣れたもので、すぐに薬を出してくれた。 「誰にでもあることなんだから、恥ずかしがらなくていいの。でも体はもうほとんど大人になってるのよ。抑制剤は必ず飲まないとね」  三十を幾つか越えたと言われているが、独身の狭山にそう諭されるのは、史生にとっては居心地が悪かった。 「柳くんは忘れず飲んでるわよね?」  発情期に振り回されないように、自分でコントロール出来るようになる二十代半ばあたりまで薬を飲むのは常識的なことだ。 「はい、キチンと」  柳結月は相手にことかかないという、もっぱらの噂だ。家と学校を往復するだけの自分とは兎属(じんしゅ)が違う。 「そうね、午前中は休んでいったほうがいいわ。井上先生には私から伝えておくから」 「はい」  史生は薬を飲むと、ベッドへ移動した。 「それと、ごめんなさい。私これから出張なの。柳くん、あとよろしくね」  狭山は白衣を脱ぐと、デスクの上の書類がたくさん入ったバッグを持って出ていってしまった。  引き戸が閉まると、室内には校庭でサッカーをする音だけが小さく聞こえた。  柳が窓の白いカーテンを引き、のどかな秋の日差しをさえぎった。 「寝たら?」  促されて史生はベッドの上掛けをめくって腰かけた。薬が効いてくれば気持ちも落ち着くだろう。史生は安堵のため息をついた。 「カーディガン脱がないの?」  柳がベッドを仕切るカーテンの端をつまみ、レールに沿ってぐるりと歩く。  それもそうだ、と史生はカーディガンを脱ぐと律儀にたたんで枕元へ置いた。 「今日はネクタイしてこなかったんだね」  言われるまで気づかなかった。やはり朝から、ぼんやりしていたのだろう。 「メガネは?」  カーテンを引き終えた結月が史生に手を差し出した。 「ん……」  言われるままに、度の強いメガネを外して手渡したら結月が小さく笑った。 「委員長、すなお~。家でもそんな感じ? お母さんが世話を焼くの?」  あっと気づいたとたんに、強烈に恥ずかしくなった。 「どうだっていいだろ!!」  腹立ち紛れに勢いよく上掛けを頭から被って横になった。 「耳、隠れてないし……赤いよ」  耳を撫でられる感触に、背中がびくんとはねた。 「やめろって言ってるだろ!!」  やにわに跳ね起きて、振り回した腕の指先に柔らかいものがぶつかった感じがした。 「つっ……」  結月の右頬に赤い線が引かれていた。傷に手をあて顔をしかめ、史生を見おろしている。 「あ、ご、ごめん。その」  思わず伸ばした史生の手を結月は掴んだ。 「うわぁっ」  まるで電気が流れたかのように、全身が細かく震えた。 「離せ」  もう片方の手で抵抗しようとした史生を結月は造作もなく封じた。 「あのさ」  結月が史生の手首に口づけした。 「ああっ!」  もう目を開けていられない。からだが痺れる。 「おぶったとき、委員長の、おれの背中に当たってけど。今はどう?」 「!!」  史生の返事を待たずに、こんどは結月は唇を重ねてきた。 「やっ……」  顔をそむけて逃れようとする史生を組み敷き、結月は執拗に唇をむさぼった。  まっさらな初心者の史生は結月のなかば暴力的な口づけに怯えた。 「やだ、やだっ」 「そう言ってるけど、さっきから、スゴく『したくてたまらない』って顔してるの、自分では気づいてないの?」  いったん、唇を離して結月が史生の瞳を真っ直ぐに見た。 「まさか、そんな……! そんなわけない」  体に力が入らない。ようやく出した声も弱々しい。  まるで自分の体じゃないみたいだ。ただ胸がドキドキしている。 「だいいち、男同士なのに」 「この間の保体の授業で教わったよね」 「馬鹿げた授業のことか? 兎族はこのまま人口が増えたら近い将来に深刻な食料危機を招くって? あんなのただの冗談だろ」  結月はなぜか不敵に笑った。 「人口抑制のために、同性同士の性行為をタブー視しない」  顔から血の気が引く。史生はなおも食い下がった。 「政府は頭がイカれてる、中学生にも見せたって聞いた。子どもにあんなの見せるか!?」  子ども? と、結月は首をかしげた。 「委員長はちがうよね。こんなになってるんだから」 「あぁっ!」  結月の膝が史生の堅くなった場所をこすった。反った喉元に結月は唇を這わせた。 「や……やめっ」  体をこわばらせて史生は懇願した。知らず知らずのうちに涙がにじむ。 「やっぱり甘い匂いがする」  史生のうなじに顔を埋めて結月がうっとりとした口調で話した。 「発情すると甘い匂いがするから……」  史生は、はっとした。その匂いは、結月からもしている。  ……と、言うことは……!? 結月も発情している? 「わっ!」  結月は史生の学生ズボンからシャツを引き抜くと、胸に手を入れてきた。 「ちょっ……と、まって」 「またない」  体の大きさにはかなわない。けれど史生は体を反転させ結月から逃れようとした。結月は愉快そうに笑うと史生を背中から抱きしめ胸を、すでに小さく尖った部分をつまんだ。 「うっ」  びくりと丸まった背中のすき間から伸びた結月の手は、そのままズボンの中に滑り込んだ。 「すごい。堅いね」  結月が熱くなった耳を甘噛みしながら史生を握った。 「あぁっ! んっ」  枕に顔を押しつけて史生は声を殺した。熱いのは耳ばかりではなく、全身がうっすらと汗ばんできた。 「も、やめて……くれ」 「やめないよ。ねぇ、委員長は一人でするときはどこさわるの好き? こことか……」 「くっ!」  しっぽの付け根を指先でこすられ、下半身に甘美な痺れが走った。 「やっぱり、ここ好きなんだ」  史生は歯を食い縛り、頭を左右に振った。しかし快感は思いと裏腹に容赦なく押し寄せ、結月の腕の動き数回で達してしまった。 「あ……あぁ……」  顎から涙と汗が滴り落ちた。枕に突っ伏した史生の首筋に結月の唇の感触がした。と、同時にズボンと下着をはぎ取られ、日にさらされた。 「な、ほんと……許して……なんでもするから」  半裸にされた心もとなさから、声がかすれた。 「なんでも?」  結月の問いかけに史生は何度もうなずいた。 「日直とか掃除当番、代わるから……」 「え?」  あっけにとられたような声をあげた結月は笑いだした。 「委員長、それじゃ取り引きにならないよ。体、こっちむけて」  これいじょうの仕打ちに耐えられそうにないのに。それでも史生は結月を見ないよう、堅く目を閉じて体を仰向けた。 「目、開けてよ。なんでもするんでしょ?」  まぶたを震わせながら目を開くと、意外なほど優しく微笑む結月がいた。 「やっぱりキレイだ。委員長の目……ずっと前から見てみたかったんだ」  愛しげに頬を撫で、額にキスをした。 「紅くてルビーみたい」  うっとりとした蕩けそうな顔はたぶん嘘ではないだろう。 「さいごまでさせて……お願いだから」  結月はベストとシャツを脱ぐと、史生の右膝の下に腕を入れて足を外側に開かせた。 「やだ!!」  結月の肩を両手で押し返そうとしたが、力が入らない。 「お願い。だっておれの……このままだなんてツラい」  ぎくりとして見ると、そこには肌の色よりも黒くて力強く屹立するものがあった。目にしたとたん、史生の汗が引いた。 「ムリ、ムリ! そんなの!」 「優しくするから」  結月は空いた右手の指を史生の秘所に沈めた。 「いっ、いたい」  しかし、ゆっくりとねぶるような結月の指の動きが史生の体を徐々に開いていく。 「んっ……あっ」 「痛くなくなったかな」  体の中心がどんどんと熱くなる。いちど達したはずなのに、史生自身は再び堅さを増しつつある。  それを結月も認めたのか、先端の敏感な小さな割れ目を指でなぞった。 「透明なの、出てる」 「いうなっ!」 「そろそろ、よさそうだよ」  史生の両の膝裏に結月は手をかけた。足の付け根に結月の視線を感じて、史生は小さく息を飲んだ。  わずかの後、結月は眉を悩ましげに寄せて史生の中にゆっくりと入ってきた。 「あっ、あ……んぅ」  さっきまでの指とは比べものにならないくらいの堅さと大きさ。押し広げられ、内側からの圧迫が加わり呼吸が止まる。 「きつっ……委員長?」  目と口を固く閉ざした史生を、結月は史生の体を抱き起こした。 「あっ! 奥……っ」  抱きかかえられることで、史生の中の深いところまで結月は入り込んだ。 「息して、委員長。息をはいて」  浅い呼吸を時間をかけて少しずつ長いものに変えていく。体の中が熱い。差し込まれたところから痛いような、かきむしりたくなるような感触が伝わったてくる。  胸にえたいの知れない生物が宿ったようにざわざわする。もうどうしたいのか、自分でも分からない。 「うん、はいったから。ぜんぶ。動いていい?」  史生がうなずくより早く、結月は史生の腰を掴んで体を揺らした。 「あ、あっ」  思わず口をふさぐ。そうしないと理性が完成に飛びそうで。  結月は史生を再び寝かせると、史生の服をたくしあげた。 「白兎はヤってるとへそのあたりまでピンクになるんだね……エロいなあ……エロいよ。委員長、気持ちいい?」 「わかん……ね」  あえぐ史生に結月はキスした。 「おれに掴まって」 「んっ……」  史生は腕を結月へと伸ばした。胸と胸が重なり、結月の鼓動が史生に伝わった。 「わかる? おれもドキドキしてんの」  結月は小さくいうと、さっきより更に激しく体を突き動かした。 「委員長の目、すごく赤い。おれのこと赤く見えてない?」 「っ……!」  結月が史生を手のひらに包むと、そこへ向かって急激に血が集まっていく。今にもはち切れそうだ。 「あっ、いいっ、委員長、おれ、いきそう」  ひときわ激しく動いたのち、結月の体は痙攣するようにふるえた。その顔を目に焼き付けて、史生も達した。  繋いだところが鼓動にあわせて動いている。史生から抜いた結月のものは、先端から白い液の糸をひいた。結月は汗を滴らせながら、長い前髪を両手でかきあげ、なぜか顔をおおった。  半身を起こして自分の体を見ると、腹のうえに自分の精液が飛び散り、内腿はぬらぬらと濡れていた。 「委員長……史生くん、好きです」  名前を呼ばれ、驚いて結月を見ると、泣きそうな顔が史生のまえにあった。 「好き、です。入学式の、新入生代表で挨拶したの見たときから」 「え? 何言ってるのか……」  結月の褐色の長い耳は、しおれるように二つに折れていた。 「ずっと好きで、同じクラスになりたくて、バカみたいに必死になって勉強して」  史生の高校は成績順にクラスが決まるからだ。結月は拳で目をこすった。 「委員長に触れられるなんて夢みたいで。でもゴメンなさい。おれ最低なことした」  唐突な結月の告白に史生は毒気を抜かれた。 「あ……意味がわかんねぇ。なんで、俺? 柳はスゴいモテるのに」 「それは、みんなに親切にしたら、委員長にいいやつだってアピールできると思ったから」 「は? 俺はオマエのこと、八方美人で調子づいてるいけ好かないやつだと思ってた」 「え!! そんな、おれ、委員長のこと可愛と思ったんだよ。ぶかぶかのブレザー着て登壇したよね。胸が、どきんってなって……一目惚れで」  結月は今さら顔を赤らめている。 「今まで自分から告ったことなんかないから、どうしたらいいか分かんなくて……」  無自覚なモテ発言に史生はイラっとした。 「にしても、順番ぎゃくだろ!!」  史生は怒りに任せて結月に服を投げつけた。  それからしばし、お互い気まずいまま服装を整えた。そうこうしているうちに史生は頭がすっきりしてきた。きっと薬が効いてきたのだ。  三限目終了のチャイムが鳴って、きゅうに外が騒がしくなった。 「今日のことは、無かったこと、いいな! 二人とも発情期にあてられただけ」  史生はメガネをかけなおし、ベッドに座ってうなだれている結月にそう宣言した。 「そういうことだ」  肩を落として結月がうなずいた。  もう、どっちがどっちだか分からない。強く言い放ったものの、史生の体はまだかすかに震えていた。 「委員長……」  結月が遠慮がちに小さく声をかけてきた。 「もう一回だけキスさせて。ここから出たら、おれのこと大キライになってかまわないから、卒業するまで無視していいから」  潤んだ上目遣いで懇願している結月に冷たくできなかった。  史生は舌打ちすると、腕組みをほどいて結月の前に立った。  結月は史生の髪に指を差し入れ、そっと引き寄せると優しく唇を重ねた。  史生は結月の甘い香り包まれ、わずかなめまいを感じた。 「ありがとう、おれのお願い聞いてくれて」  結月が消え入りそうな声で礼を言った。  その姿がなぜか赤く色づいて見えたような気がして、史生はあたりをみわたした。  そう見えるのは、目のまえの結月だけ。  業間の終わりが近づいたからか、廊下のざわめきが慌ただしくなり、やがて潮がひけるように静かになっていく。 「委員長?」  史生は保健室の時計に目をやった。 「午前中の授業は休めって言われたから」  結月は小首をかしげて史生を見た。  史生は結月にみずから口づけた。 「委員長」 「まだ薬が効かないみたいだ」  結月の腕がおずおずと史生を抱きとめる。 『発情期のせいだからかな……』  四限目始業のチャイムを聞きながら、史生は結月の胸に額を押しつけた。  つぶった目の裏もほのかに赤く見えた。  おわり  
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