*フユノオト*

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*フユノオト*

「それで頭拭いとけ」 裏口から中に入ってきた俺達。 俺は店の薪ストーブに火を入れると、汗で髪の毛が湿っていた洸に向かってタオルを投げた。 「ストーブ、火を入れたから薪くべるのを頼む」 「了解!――あっ、梶さん。」 「なんだ?」 「タオル、ありがと」 少しキツい言い方になってしまった俺に対し、洸はそう礼を言うと、その柔かな髪をグシャグシャとタオルで拭きながら、店の方へ歩いていった。 その時、勢いよくヤカンがピーっと音を立てて。その音に急かされるように、俺はコンロへ戻ると火を止める。 ―――梶さん、今日は笑ってるね。 さっきの洸からのひと言が不意に思い出され、俺の心はじんわりと温かくなった。 さっきは何だか気恥ずかしく、ぶっきらぼうな物言いになってしまったけれど。 ―――俺の方こそ…ありがとうだな。 自分を気に掛けてくれている、その洸の気持ちが嬉しい。 そう思う反面、洸は周りのことを良く見ている奴だと少し反省する。 仕事と人間関係のストレスのせいで気持ちが病んでいた洸は現在長い休暇中だ。 その洸が気にしてしまうぐらい、 俺の感情は態度にでていたんだろうか、そう思った。 ** 2月に入ってから、俺の頭を悩ませている事が1つある。 それは、店で提供していた軽食用のパンの仕入れ先が、店仕舞いをすると決まったことだ。 珈琲バカな親父と軽食担当の母さん。両親が始めたこの喫茶店。 母さんが作る家庭的なそのメニューはわりと評判が良かったけれど、そのおふくろが亡くなり、うちの喫茶店では軽食を出す事が難しくなり今に至る。
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