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―――いない。
本来ならば、寒さに身をすくませて。
恨めしそうな猫みたいに、洸が俺を睨みつけるその姿を拝める筈だったのだが。
―――つまんねーの。
ソファーベッドに洸の姿は無く、その寝床はもぬけの殻で。
俺は期待した分、朝からなんだな淋しい気分になった。
「あー、さみい」
―――あいつ、店の方にいるんだろうか?
楽しみを奪われ、寒さがなんたか身に染みてくる。
俺は死んだ親父の形見のドテラを引っかけ、スリッパに足を突っ込むと、店へと繋がる階段を下りた。
「洸、いるのか?」
再度名前を呼ぶが返事は無い。
シン…と静まった喫茶店の中は、朝の魔法に掛かったように鎮まりかえり、人の気配など微塵も感じられない。
―――あいつ、いったい何処へ行ったんだ?
その時、何気なく覗いた窓の外に洸の姿が見えた。
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