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何も見なかったことにして再び歩き出した私の後を、足音が追ってくる。どうやらついてきているらしい。ぱっ、と振り向くと、男もぴたり、と足を止めて、こちらをジーッと見つめてにたあ、と笑う。
ぱっ。ぴたり。
「だるまさんがころんだ」みたいだと思ったが、鬼も歩くので男との距離は変わらない。気味は悪いが突然襲いかかってくるような気配も無かったので、無視してそのまま公園へ向かうことにした。
結局男は最後までついてきてしまった。私が公園の入り口を通るやいなや、後ろにいた男は猛スピードで私を追い抜いていき、大きな造木をよじ登りはじめた。
あっというまに天辺に到達した男は、私を見下ろしてギャハハ、と笑った。
「旦那ぁ、サイこノケッシキなァ!イーばショ、イいバショ、知っテルねエー?ここデ魚クッテ寝リゃ、ウマぃ!ヒャッヒャッ、おっこチテしいんヂマうヨな、エ、ヒャッヒャッ」
確かに落ちればただでは済まなそうな高さだが、男の運動神経は相当良いようだ。常人はあんなにも素早く木を登ることはできまい。
木の上の男は、今度は大声で歌い始めた。それは到底歌とは呼べないものだったが、私は男を見上げたまま黙って聴いていた。
「アッタラ、シオタラ、ハーレンゲェー。フナフナ、コイゾー、マッサカサー。ヤラデ、ヤラデ、オイヤラデ。アパリン、タパリン、モンドムヨー……」
男は陽気に、時々オイオイ泣きながら歌った。最後の方はかすれ声になりながら一気に歌い上げた。
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