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満足した様子で、するすると地上に戻ってきた男は、私をまじまじと見つめた。私も、改めて男を観察した。
猫背のせいでひ弱そうに見えるが、筋肉はしっかりついていて、逞しい体つきと言える。また、私を見つめる瞳の奥には、まだ輝きが残っているように見えた。もしかしたら、まだ青年と呼べる年頃なのかもしれない。だとすれば、より一層哀れむべきことだ。
男の方は、私を観察して何を考えているのだろうか。あちらも、私を哀れんでいるのだろうか。それとも憎んでいるか。分からない。まともな思考力が残されているのかさえ。
「旦那ぁ、つギッ、ドコいクよ」
男は子供のように言った。次か。では、あそこに行ってみよう。
私と男は並んだまましばらく歩いて、やがて、公園の中央にある大きな池にたどり着いた。
「オッ。魚、サカナ!タイりょウな、ハッ!ホッ!」
男は駆けていき、膝立ちになって水を引っ掻き回した。静寂に、爽やかな掛け声と水しぶきの音が溶けていく。私は近くにあったベンチに腰掛けて、男の様子を眺めていた。
男は夢中で水面を叩き続けていたが、突然、濡れた両手で顔面を押さえて、金切り声を上げた。
「アアアアアあああッ、イダイッ、いダいイイイー!ガァー!ナァー!ヤラデ、オイヤラデ、シんでモォ、アウアアアあアア!」
絶叫しながらのたうちまわり、そのまま池の中に転げ落ちた。私は思わず立ち上がったが、男はすぐに水面から顔を出した。
「ブワァ、アアッ……ヒエたラ、なんトカ。イタミひクな、イイばショナ、イイばショナァ」
そのまま、見事なクロールで池の真ん中まで泳いでいった。私は息をついて、座り直した。
男はかなり遠くまで行ってしまった。何か陽気に叫んでいるが、何と言っているのかは分からない。ただ楽しそうではあった。
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