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厄日
…───ピピピ、ピピピ
無音の部屋に響くアラーム音に俺は閉じていた瞼を開けた。
すぐさまアラーム停止し時刻を見れば午前5時ぴったし。寝床に就いたのは4時前。
そんで寝付きが昔からクソ悪い俺は残念ながら一睡すら出来ていない。
「…くぁ」
それでもアラームが作動したんなら仕方ねえ。
名残惜しくもないベッドを欠伸とともに抜け、首に嵌めた金属製のチョーカーのボタンに手を伸ばせば無機質な声。
《今現在ノ体温ハ 34度8分 平均ヨリ 1度2分 低イデス 体ヲ温メテクダサイ》
指示通りキッチンへ向かい、手馴れた手順で無糖のホットコーヒーを淹れて戻れば視界に映る書類の小山。
一人部屋を存分に活用し客人を招く用にリメイクした総隊長部屋とは違い、俺個人の部屋はリビングと同じく殺風景だ。
白の収納付きベッドにL字型デスク、壁面クローゼット。てな感じの必要最低限のモノしかない。
そんな無機質な部屋ん中に上手く溶け込んでやがる小山は、2年に上がって早々に押し付けられた親衛隊関連の書類どもだ。
男子校だってのにまったく陰湿極まりない奴らが多くてほとほと困る。
全寮制だから〜、金持ちで甘やかされたから〜、てのは言いワケになんねえほど陰湿だ。性根が湿ってやがる。
目に見えた被害は与えず、保身に走りながらも着実に不快感の募る形は俺の一番嫌いなタイプだ。
せめて面と向かって『首切って死ねブス!!』とでも言や好感度は高えのに。
コーヒーを机の端に置き、俺はデスクチェアに腰を落ち着かせた。
「にしても美形好きぶりっ子総隊長ってだけでコキ使いすぎな」
誰にも汲み取られることはない呟きを半笑いで吐き捨て、思考をリセット。
ノートPCを合間合間で活用しつつ忌々しい書類に手をつけた。
そっから一段落がついた頃には6時ちょい過ぎ。
残ってるモンは生徒会への新規親衛隊員報告書を渡すのみ。はい最難関。
この類は普段なら他の隊員。生徒会の各隊長の誰かしらに理由をつけて頼むが、なんでも新規隊員の書類関連は総隊長自ら届けなきゃいけないっつー傍迷惑な規則がある。
…憂鬱だ。
深く背をもたれれば、気持ちとは裏腹に明るい通知音が一つ部屋に落ちた。
放ったらかしていたスマホを見れば、俺によく絡んでくる奴からのメールで〖朝食作ったからおいで〜〗の一言と可笑しな猫のスタンプ。
それに考える必要もなく普段通り二つ返事で返し、俺も同種のハートを持った猫のスタンプを送った。
そうと決まれば毎朝恒例の準備の始まりだ。
まずは洗面所で洗顔し顔を上げれば、鏡に映る藍色のストレートの髪に金色の目をした素の俺。
これが今から黒髪黒目のロングツインテールに化ける。
見合うよう服装はスカート、ニーハイ、ウィッグにメイク。
そう、つまるところ俺は今から男子校に花を咲かせる。要するに女装だ。
…。
キッ……ツイな。
女装した俺は目も当てれないほど醜悪なワケではない。
元々造形は整ってる方で小中の頃は女子から、まあ、好意をよく持たれてもいた。それにココ一年でメイクの腕はかなり上達したしな。
でも普通にキツイ。
何がキツいって趣味でもねえ女装を嫌々と着こなしては時代遅れなぶりっ子を演じている事実がだ。
追加要素で偏見から勝手に設定付けられたビッチな。クソッタレ。
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