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恒例の準備を恒例に萎えた気持ちで成し遂げ、姿見の前で最終確認の笑顔。
今日は普段より体調が悪い気がしなくもねえけどそんなんはデフォ。
基本から低体温気味で、体調が悪くともマシな時は目眩か吐き気。最悪な時は少量の吐血。
んで今回の体調不良はただの睡眠不足だから恐らく前者。
問題はないと考える間もなく結論づけ、季節外れの薄桃色のマフラーを巻いてから俺はメール主こと金成 遊理の部屋へと足を運んだ。
朝日で眩く広々とした廊下を淡々と進めれば5分もかからずして到着し、チャイムを鳴らして数秒後。
遊理とは別の快活な声のあとに扉は開かれた。
ふわり、と焦げ茶の髪が狭間見え、今日もうるせえ顔面が顔を出す。
「やっほ、哀原!」
きゅ、と浅葱色の両目を細め俺を歓迎するような口振りで話す男は羽崎 晴人。
性格は男同士の恋愛を好み、口を閉ざすことを知らない口達者な奴だが意外にも秘密主義者な変人。
「…またコイツ呼んだのかよ」
と、その背後のトイレ帰りらしいインナーオレンジの黒髪は間宮 炉衣。
性格は……血気盛んで見たものをそのままに捉え、心の内を包み隠さず吐き出す馬鹿正直な間抜けな阿呆。
まあ、悪い奴ではない。俺以外にはな。
遊理を含めて難癖かある俺らに共通点を上げるとしても同クラのことのみ。
それでも関わりがあんのは遊理が食事の場を嬉々として設けるからだ。
つか前提に遊理は別としてこの二人、特に間宮は俺を多分というか絶対に嫌いなんだけどな。
そりゃ美形に媚び諂って節操のないぶりっ子なんぞ好かれるワケがねえんだけど、露骨に態度に出し過ぎだろと毎度思う。
特に間宮。
お前な、間宮。
こほん。
心の中で咳払いを一つし、俺は口角を僅かに上げ続けていた表情をあざとさを意識した笑顔に変えた。
「わあ、今日も二人とも居るんだね。嬉しいなあ」
「俺は嬉しくねェけど」
食い気味な間宮に内心中指。外面は笑顔を返せば奥から俺らを呼ぶ間延びた声。
その声に戻っていく二人に俺も続けば、テーブルには人数分のハンバーグやら白米やらが用意されていた。
「おはようみぃくん〜! 来てくれてありがとうねえ」
「僕こそ今日も呼んでくれてありがとぉ」
ふにゃふにゃ笑いあって、各々手を合わせた。
それからすぐさま箸を手に食事を運ぶ前二人とは反対に、俺は一歩遅れてからハンバーグを口にした。
…だよな。
テーブルに並べられたラインナップを見た時から危惧していた予感は的中。
最近胃に肉や魚を入れていなかった所為で気を抜けばキラキラな噴水が口から溢れてきそうだ。
マーライオンの如く。
言うまでもなく味は三ツ星並に美味いけど、俺の胃がクソザコ以外の何物でもない。
まだ油っこいトンカツ食ってる5、60の老人達の胃の方が強えよ。あの人らの胃はどうなってんだ。鋼か。
「…みぃくんは?」
「うん、すっごく美味しいよお」
間を開けず微笑めば明白に安堵する遊理。
ごめん、吐きそう。
だなんて笑顔で言えるハズは当然ない。
俺が今すべき最重要課題は美形の手料理を完食するのみだ。
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