厄日

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「は、吐く……」 どうにかこうにか装われた分の食事を完食後。 吐き気を堪えてるって時に甘さ控えめのミルク寒天ゼリーがデザートに出てきて俺はクリティカルヒットを食らった。 おかげさまで部屋を一足先に出た時から壁に手を付いて虫の息だ。 うく、と空気を呑み込んで。滲む冷や汗をそのままに唇を噛み締め、目の前に見える扉に気は拍車をかけてダダ下がり。 現在、生徒会室の文字が金のプレートに刻まれた扉前。今すぐ隕石で潰されるか爆発してくんねえかな。 夢見がちなことを願ったって隕石は降らねえし爆発物も仕掛けられてはいない。 俺は浅く息を吐き出し、腹をくくって扉をノックした。 「ああ、君ですか。生徒会室にどのようなご用件でしょうか」 現れたのは俺と同じく営業的な薄ら笑い。 深緑がかった黒髪を傾け、黄緑色の冷えた両目を細めるのは今年度から生徒会副会長を務める青依(あおい)先輩。 「おはようございます副会長様、新規親衛隊員についての書類を届けに来ましたあ」 「そうですか。では早急に」 にこやかな表面とは真逆に愛想の悪い先輩の横を通り、中をそろりと見渡せば珍しく全員集合していて吐き気が倍増。 …副会長の言う通り早々に手渡してこっから出よう。でなきゃガチで嘔吐しそうだ。 そう足を一歩踏み出せば視界が真っ白に滲み足が止まった。 身に覚えがありまくりの白は貧血の初期症状だ。 「何をしている」 「えへへ、皆様のお顔を拝見出来たことが嬉しくてえ…」 サラリと口をついて出た言い訳のすぐ。不自然に立ち竦むことは出来ずに俺は歩み出した。 「遅れてしまってごめんなさい」 無駄に規模のデカい生徒会室を真っ直ぐ歩み、会長の元に着く頃には何とか視界はほぼ回復。 そんな俺の苦労を露とも知らねえ会長は置かれた書類を一目見て「下がれ」と一言。 警視総監の息子でありながら去年は2年にして副会長を務めていて、今年は圧倒的な支持を集め晴れて会長に昇任。 成績は常に学園トップの文武両道に、極めつけにモデル以上の体躯に艶やかな黒髪と赤い瞳を持った眉目秀麗。 まさに非の打ち所がない円城寺(えんじょうじ)先輩(笑)だが、これ。 これだ。 俺に限って対応が目に見えて酷薄。親衛隊という名のファンクラブを嫌ってんじゃなく俺自体を会長は、生徒会は何故か嫌ってる。 ちなみに思い当たる節はない。媚びってるだけでなんで徹底的に嫌われなきゃなんねえんだ。 家柄や顔面からして慣れてるだろうに。 …考えてみりゃ現3年の先輩達からは入学当初から目の敵にされてたっけな。 無駄にキューティクルな黒髪を見下ろし、俺は軽く右ストレートを食らわしたくなった己の心を鎮めた。 「えぇ、残念ですけどお…それでは失礼しますねえ」 その代わりに今できる最大の仕返しとばかりに甘っっったるい声を喉奥から絞り出し、軽く身震いをする役員共を一瞥した後に扉を閉めた。 ざまあみやが………ヤベェ、俺が吐きそう。
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