厄日

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このクラスの担任は去年地方の中学校から異動してきた佐伯(さえき)先生で、容姿はダサ眼鏡以外の特徴は特にない教師で担当は生物。 そのため面食いな生徒達には人気はあまりねえけど、俺にしては結構好きな方だ。 物腰柔らか、優しい、そして謎の実家のような安心感。 気になる点は普段からどこか憂鬱げな情調が漂っているぐらいだ。 「…───では、本日は少し前からお話していた転入生が来ています」 転入生には毛ほども興味はなく、頬杖をついて左隣の窓から快晴の空を眺めていた時。 ガラリと引かれた扉の音に思わず流し目で見て、瞠目。 いや。 何故も何も、ふざけたボサ頭にパーティ用の黒縁メガネ。 あまりにも規格外過ぎるインパクトに口をあんぐりと開けなかっただけ俺は偉い。 転校初日になんだあの悪ノリ常習犯みてえな格好は。 そんな圧倒的奇怪な姿でも大半の生徒は歓迎しているが、容姿至上主義な少数の生徒らからは小声で口々に批判の声。 中ではあの観賞用植物邪魔なんだけど、だなんて言葉も聞き取れて俺はハッとした。 既視感それだ。マリモ。 「皆さん静かに。では自己紹介をよろしくお願いします」 「おう、俺は真都(まと) 優兎(ゆう)だ! 見た目でとやかく言う奴とは友達にならないからな!」 「席は…哀原くんの隣の席。あのツインテールの子の隣に座ってください」 佐伯先生の言葉に見渡すような仕草をし、俺を見つけるとニンマリと口角を上げて大きく頷いた。 判っては、いた。 空白の隣の席に薄々と勘づいてはいたが冗談はよしてくれ。 こんな風貌をしといてなんだが面倒事には巻き込まれたくねえ質なんだよ。 そう、半ば諦めに祈る俺の元に真都は迷いなく向かって来た。 「俺のことは優兎って呼べよ! お前の名前は!?」 「…哀原湊叶だよ。よろしくねえ」 普段のふんにゃり笑顔に付属で小さく首も傾げて見せれば、数拍おいて田中同様ボフンッと顔面が赤く染まってはい降参。 俺はきっと面倒に巻き込まれんだろうな。 それからというものの隣から視線がぶっ刺さりながら俺は笑顔でやり過ごし、予期していた通りに昼休みになると途端。 優兎はどこか緊張した面持ちで上擦った声をかけてきた。 「み、湊叶…いっ、いい、一緒に昼飯食べに行こう!! 和泉(わいずみ)と三人で!!」 ぽっぽ顔を赤らめる優兎は対応良くスルーで、それよりも和泉……? と隣に目をやればいつの間に交友関係を持ったのやら。 好青年の塊みてえな笑顔を浮かべた男を発見した。発見してしまった。 詳細に言えばアッシュブラウンの髪に海辺の色を映したような青目。その目鼻立ちの整った顔面を発見した俺はもう手詰まり。 つまり。 「哀原、良かったら俺らと学食に行かない?」 「………イイヨ」 俺に拒否権は存在しねえってこと。
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