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「そうやってしばらく店で内田さんのことを見かける日が続いて。そしたら毎日のように夢も見るようになっちゃって」
それは嫌かもしれない。
私だったら眠るのが苦痛になってしまうんじゃないだろうか。
そう思ってはっとした。
「もしかして眠れていないの?」
その問いかけに田町君は困ったような笑みを浮かべた。
「その時はなんとか。だから、あなたが図書館で働いてるって知って会ってみようかと思って。それがさっき言ったときのことなんですけど」
「なるほど」
「僕にとって、あの言葉はすごく衝撃的だったんです。なんだか、とても救われたというか。あなたに、あんな風に言ってもらえたことが本当に嬉しかった」
それほどまでに、彼にとって予知夢を見ることは辛いことだったのだろう。
「羨ましい」と言わなかった過去の私を褒めたい。
「それからはもういいかなって思えるようになって。夢のおかげで内田さんに会えたんだとしたら、この力も悪くないのかもなって」
そう言って、また熱っぽく私を見つめてくる。
そんな風に真っ直ぐに視線を向けられるのは苦手だ。
「えぇと。そうだ、その時は眠れてたようですけれど、今は? 倒れるぐらい体調が良くないのでしょう? 読書は元気になってからにして、しっかり寝たほうがいいんじゃないでしょうか?」
「あー……、そうですよね」
不意に目を逸らされる。
「いや、まぁ、ちょっと、あんまし夢見たくないかなっていうか」
「嫌な夢になったんですか?」
「そういうわけじゃ……。あのっ、本当に、軽蔑しないでもらえれば嬉しいんですけど。全部、僕の変な力のせいだと思うんですけど。あっ、だからやっぱり僕のせいになっちゃうのかな」
珍しく歯切れの悪い話し方に、何を言われるのかと身構える。
「実は、この半月ぐらい、ずっと、夢の中の内田さんがセクシーすぎるんです」
「はい!?」
それは、つまり、どういうこと!?
そんな、他人の夢で、しかも予知夢を見る人の夢で、夢の中の私は一体何を……。
想像したら恥ずかしくてたまらない。
「ごめんなさい」
「……いえ」
別に田町君が悪いわけではないと思うけれど。
なんて言えばいいのかわからない。
「だからね。もう見てるだけじゃダメだなって。こんな変な夢見続けるのは内田さんにも失礼だし。告白するしかないなって」
「そういうことだったんですね」
田町君の話を疑うことはいくらでもできるはずだ。
でも体調を崩してまで通ってきてくれて。
きっと、もっと早くに私が話を聞いていればそうはならなかったはずだけれども。
それでも諦めずに伝えようとしてくれて。
そう思ったら、なんだか胸が温かくなってきた。
田町君がゆっくりと起き上がる。
もう大丈夫なのだろうか?
一呼吸吐いてから私に視線を向ける。
「内田さん。あなたのことがもっと知りたい。今すぐ僕のことを好きになってくれとは言いません。少しずつでいいから僕のことも知ってください。それで、いつか好きになってくれたらなって思います。だから、2人でご飯とか、どっか遊びに行ったりとか、そういうのしたいです」
とても真剣に、でも最後はちょっと照れたように伝えてくれる。
こんな私でも本当にいいのだろうか?
不安はあるけれど。
「田町君の作ったパンが食べたいです」
そんな言葉が自然と零れていた。
「もちろんです!」
満面の笑みを浮かべて大きく頷く田町君。
こんな風に笑いかけてもらえるのは悪くはないなと思えた。
“運命”だなんてものが存在するのかはわからない。
この先の未来がどうなるのかも私にはわからない。
でもきっと、楽しい日々が送れるんじゃないかしら。
そう思える笑顔だった。
fin
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