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あぁ、さよなら
夕日が、この廃墟ビルに差し込んでいた。
思わず目を細めてしまうほどの鋭い夕日は、幸せそうな顔をして永遠の眠りについたヨークルの頬を焼いていた。それは、リンも同様で、彼は永眠した兄を真っ白な気持ちで見続けていた。
心臓部には、いくつもの弾痕がある。強化骨格を貫くには、何十発も弾丸を当てて、無理やり貫通させるしかなかったのだ。
「…僕は、これからどうなるんですか…」
「アタシと一緒についてきてもらうわ」
「……それからは…?」
「もっと厳しい訓練が待ってるかもね…」
「……」
リンは、先が思いやられるなぁ、と深いため息をついた。もう、彼の中に負の感情はなかったといえる。
「プランが解けてきたせいで、一つ気づいたことがあります」
「なにかしら」
「…イヌーティルってのは、全部作り物ですよね」
「えぇ、そうよ。すべて、ヘッドチップを着けたものはイヌーティルを信仰するように出来てるの」
「あなたは…?」
「アタシは、例外よ」
ティアは、そう言う。リンは、再びヨークルを見た。
「幸せそうな顔が死んでるなぁ…」
「よっぽど、あなたに最期を診てもらえて嬉しかったのよ…」
「……そうだといいですけど…」
リンは、そう言う。
そして、ささやかに笑った。
「……えぇ、きっとそうよ…」
そんな彼を見て、ティアも笑う。
リンは、これからオルターヨークに向かわなくてはならない。オルターヨークにエクエスの光の本拠点が潜んでいるらしく、世界を護るために作られた彼は、何としてもそこに行かなくてはならない。
ティアは、現在でもオルターヨークの武装局員らしく、リンの今後は上官の命令でティアに全て任せられているらしい。
「オルターヨークの訓練場は広いわよ」
「はは、そうでしょうね」
そんな他愛もない話をしながら、リンはヨークルから離れた。
非常階段へ向かおうとするティアの後ろ姿を追いかけるようにリンも歩き出す。けれど、一瞬振り返ってしまった。
「…さよなら…」
リンはそう言うと、その場をティアと一緒に立ち去った。
これから、リンとティアの新しい物語が始まるのだが、それはまた別の話である。
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