スカーレットの肖像

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スカーレットの肖像

なんだこのクソつまらなさそうな出だしは、こんなの聞いて喜ぶのは四二零草を吸ってハイになったジャンキーか、最低職の勇者にもなれずに俗にいうライトノベルを部屋に籠もって読むしか脳のないニートだけだ。 と、まあそんな批評をしたところで、とうの作者はとっくに事切れているんだが。 あらら、血で台無しじゃないか、せっかくの作品がもったいない。 ...まあこんなの誰も読まないだろうからとりあえず暖炉の中にでも入れておくか。 さて諸君、何がなんだか訳がわからず私の方を戸惑いの表情で見ているだろうが自己紹介をさせていただこう。私の名前はクラウス、下の名前は君たちに明かすほどでもない。私の職業は「吟遊詩人」、まあ英語で言えばストーリーテラーというやつだ。こうして私はこの世界の出来事を一つの「物語」にし、そして君たちの世界でエンターテイメントの一環としてそれを提供する。私のスキルは神と人のハーフを倒すほどの複製能力でもなければ、神の気を纏って髪の毛を青くすることでもない。私のスキルは至極シンプルで、「作家」というやつだ。 ん?なんだそんなクソつまんないスキルはだ?俺の方がうまく書けるだ? まあ気持ちは分かるがそう怒るなって、血圧が上がってその頬にできたニキビが爆発するぞ。 私が君たちと決定的に違うことは、私は君たちの世界とこの物語として提供されている元となった世界を行き来できるということさ。 だから僕は君たちがたかだか一枚の写真を上げるためだけに列に並んでカエルの卵みたなタピオカなる飲み物を購入することだって知っているし、一つのウィルスに社会が混乱して、自分たちの世界が人間以外の力によって揺さぶられていることに辟易していることだって知っているし、コンビニが来月からレジ袋有料化することだって知っている。そういう具合に、私は向こうの世界のこともよく知っている。しかも僕は長生きなもんだから、君たちが生涯のうちに培う知識よりも多くのことをこの頭に蓄えている。 ちなみに僕は「人間」ではなく「魔人」だ。魔人のいいところは寿命を自分の力でコントロールできることだ。誰かが私殺そうとしても、崖から物凄い勢いでインパラが突っ込んできて落ちようとも、フレディーマーキュリーと交わってエイズにかかろうとも(彼が生きていたらぜひ彼の恋人になりたいと思ったものだが)、私は死ぬことはないのだ。だから私は満足するまで生きるつもりだ。その満足がどこで満たされるかはさっぱり予想つかないが。 話が逸れてしまったな、時を戻そう。このネタが君たちの世界で流行っていると聞いたので入れてみたのだが、どうだろう、笑っていただけただろうか。ほら、笑えよ。笑えっていってんだろう!どーせ君たちができることなんて人の機嫌を損ねないことだけなんだ!文句などTwitterに書いてあとは現実世界でヘコヘコしておけ!自分を押し殺せ!隷属しろ! ...全く、なんてことを言うんだ、こう言うやつが簡単に誹謗中傷したりするのだろうか。全くもって悲しい世界である。 兎にも角にも、私は吟遊詩人である。君たちに何か一つ話をしなければ面白くないだろう。 この世界の話は意外と向こうで受けるものだ。最近ウケた話は鬼になった妹を人間に戻すために剣士となり奮闘する少年の物語だ。 著作権?世界が違うのだからパクリだなんて言わせないぜ。輸出したのは私だ。 とまあそんな具合で、向こうの世界の話をこちらに輸出しようと思ってこの男の家を尋ねた訳だが、あまりのつまらなさについ、うっかり、うっかりなんだ、うっかり殺してしまったんだ。 死ぬ間際に「これはわしの大傑作になるんじゃ!」とか言ってが耄碌したのかじじい、お前が同行した冒険は、そんな大層なものではなかったろう。 ...どうだろう、この男の身の上話を披露しようと思うのだが。 何?フィクションを聞かせろだって?一人の男の人生など興味はないって? しかしねえ君、フィクションとノンフィクションの区別が、話の面白さに必要か? かの有名な劇作家もこう言ったではないか。 「事実は小説よりも奇なり」と。 ちょっと論点がずれているか。 まあ何が言いたいかと言うと、話の面白さなんてその語り手の腕にかかっているのであって、物語の設定や場ではないと言うことさ。 君たちだって居酒屋やパブになったときに、面白い話をしてくれるおじさんと飲んだりするだろう? 未成年だ?まあそれはしょうがない。 下戸だ?体質もまたこれしょうがない。 外に出ないだ?まあそれが嫌いな人もいるからしょうがないと言うか強制なんてできない。 ...なんだ、誰もそう言うことしないのか。じゃあこの話はいいや。 ただやはり語り手の話にかかっている、こう自分で言ってしまうと私の双肩に重圧と言う大きな重りがのしかかるのだが、今のところ、読者諸君は私の語りに嫌悪を抱いていないだろうか? ならばよし。 あなたは飽きないわ、私が楽しませるもの。 もうすぐ映画が公開されるそうだな。あの監督は何考えているかさっぱりわからん。 またまた大きく話が逸れてしまった。談合坂SAの本線に戻るときの道なみに逸れている。 まあいい、虚構か現実か、その区別は君たちに任せる。ただ私はこの男の生涯を物語として残すことがまた一興だと考えているのだ。だから君たちが聞こうが聞くまいが、こうしてここで声を大にして、高らかに語ろうと思う。 「語りえぬことについては、沈黙しなくてはならない」 哲学書を捨てて、町へ出よう。 僕らはこれから大いなる世界への旅へ出る。 片道切符の、グランドエスケープ(大いなる現実逃避)さ、お嬢さん。
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