終わりに、そして始まりに

1/1
前へ
/2ページ
次へ

終わりに、そして始まりに

敬具我文字を読む君たちへ かつて戦争があって、それから十数年の時が過ぎた。 あまりにも多くの犠牲が灰となり、そうして忘却の彼方へと葬り去られた。 私も、その灰の一部であると思いたい、そしてそう思っているからこそ、こうして私はここに書き残しているのだろう。 忘れることは、人間の特権である。しかし同時に、それは人間の背負わされた罪である。 「はじめに言葉があった。言葉は神とともにあった。言葉は神であった」 血と硝煙と地球の匂いのする煉獄の中で、導かれるように拾ったあの本の冒頭に、そんなことが書いてあった気がする。 私の言葉は、神となりうるのだろうか。 それとも、この世界を焼き尽くし、かつてエデンの楽園を奪おうとしたあの奈落の王が、その廃れた世界の空に君臨するのだろうか。 それは歴史が、そして私の死後にこの世界に生を受ける人々が決めることだろう。 私がなしうることは、ただ、語ることだけだ。 語り、そうして天に召されし魂の代弁者となりうることだけだ。 父よ、母よ、主よ、そして我が友マクスウェルよ。 貴殿らの願いが、運命に導かれんことを。 そしてあの忌まわしき戦いに終止符を打った出来事が、誤解なく人々に伝わらんことを。 神々の、人々の、巨人の、狼たちの、そして子供たちの、一人の「聖女」を巡りし記録が、ここに書き記されんことを。 そしてマクスウェルよ、私の裏切りを、どうか、許してくれ。 我最後の命が、言葉たちに燃やされる前に、印として刻まれることに敬意と畏怖の念を込めて。 ロバート・ウィリアム
/2ページ

最初のコメントを投稿しよう!

0人が本棚に入れています
本棚に追加