第7話 灰村シンディの鍛錬

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第7話 灰村シンディの鍛錬

 「終わったわ……もうお終いよ……」  玄関から今へと繋がる廊下に崩れ落ち、床に手をつくシンディ。 『何を落ち込んでいるんです?』 「落ち込みもするでしょう? こんなにも早く他の魔法少女に目を付けられたのよ? 私はまだ魔法少女の力の使い方も碌に分からないのに……」  危機感のまるで感じられないシンデレラの童話本に対して苛立ちの言葉をぶつける。 『ならば魔法少女の何たるかを学習しましょう、実際に魔法を使って経験を積むにです……このまま座して死を待つのが嫌なら』 「どうするっていうのよ? 加里奈とかいう女とその仲間が今もこの家を監視しているかもしれないのに……それに時間が無いわ」 『そこはご心配なく……わたくしめに策があります』  そういうと童話本は宙に浮き自らを開いた……本は眩い光を放ち始める。 『さあ、私に手をかざすのです』 「う、うん……」  恐る恐る本の言う通り右手を本の上に差し出すシンディ……手が光に触れた瞬間、物凄い強い力で引っ張られた。 「きゃっ!?」  次の瞬間、彼女の身体は本の中へと吸い込まれてしまった。 『フフフ……おとぎの世界へおひとり様ご招待です』  そう言うと童話本はパタリと身体を閉じ、自らもその場から姿を消した。 「はっ……私、一体?」  シンディが目を見開く……本に吸い込まれたところから意識が途絶えていたのだ。  目に映るのは廊下の天井では無く、美しい青空であった……鼻腔には緑の香りが充満し、ここが屋外であることが分かる。  立ち上がり衣服の汚れを払う……いつの間にか彼女の服はシンデレラのそれになっていた……一体いつ変身してしまったのか。  辺りを見回し確信する、ここはやはり野外……それもおとぎ話に出て来るような明るい日差しがさす穏やかな森だ。 『やあシンディ、お目覚めですか?』  頭の中に童話本のテナーボイスが響く。 「ここは一体どこなの? 私をこんな所へ連れ込んでどうしようっていうの?」 『ここは強いて言うなら【おとぎの国】でしょうか、ここへあなたを連れてきたのはあなたを鍛える為ですよ』 「私を鍛える?」 『そう、あなた自分で言ったでしょう? 別の魔法少女に目を付けられた上に時間がないと……ここはあなたの懸案事項を全て解決する場所なんですよ』 「まさかここは……私たちの居る世界ではないとでもいうの?」 『ご名答、ここはあなたたち魔法少女の住まう現実世界とは違う世界です  こちらの世界ならばあなたを監視している加里奈とかいう女たちに邪魔される事は無い、存分に魔法の鍛錬が行えるというもの』 「そんな……」  魔法少女になっておいて今更だが、シンディは自分がいかに非現実的な世界に身を置いてしまったかを実感する。  しかし実際に俗にいうところの異世界に来てしまった以上受け入れるしかない。 『ほら早速来ましたよ、練習相手がね……』 「えっ?」  茂みを揺らしながら何かがこちらへ近づいてくる気配がする。   「グルルルル……」  現れたのは大型犬程の大きさの狼であった。 『早く戦闘準備を!!』 「わっ、分かったわよ……【掃除(スイープ)】」  シンディの手元に一本のモップが現れた……慌ててモップの柄を握る。 「これで戦えっていうの? あの大きな狼相手に? 無茶言わないで!!」 『それはただのモップではありませんよ、あなたの想像力と魔法力を駆使して戦ってください!!』 「そんなこと言ったって……」  シンディが困惑している間に狼がこちらへ向かって駆けて来た。  予想以上に速度が速い。 「えええーーーーい!!」  半ばやけを起こしモップを振り回す……するとモップが描いた軌道が光の帯となりそのまま空中に残った。 「ギャン!!」  飛び掛ってきた狼がその光の塊に頭から激突し悲鳴を上げる。 『よし、その調子ですよ……止めを!!』 「それっ!!」  怯んでいる狼の頭目がけてモップを振り下ろし追い打ちをする。 「キュオオオオン……!!」  打ち伏せられた狼は断末魔を上げ光の粒子になって霧散した。  シンディは見事狼を打ち倒したのだ。 「ハァ……ハァ……ハァ……やった?」  無我夢中、命からがらなんとか敵を倒せたことに安堵する。 『やりますねぇ、初めてにしては上出来ですよ……はい、次行ってみよう!!』 「えっ、えええーーーーっ!?」  勝利の余韻に浸るのも束の間、眼前の草原には既に他の狼たちが群れを成していたのだ。  基本、狼は群れで行動するもの……始めから狼は複数いたことになる。  数分後。 「痛たたた……」  なんとか十数頭の狼を撃退したシンディであったが、 身体のあちこちに引っかき傷や噛まれた痕があった。  当然傷口からは鮮血が滴っている。 『狼の牙や爪には病原菌が付いているかもしれません、早めに治療と回復をを……』 「くっ……【洗濯(クリーニング)】」  そう唱えるとシンディの身体の周りを水のイメージが取り巻く……するとボロボロだった衣服と傷が襲われる前の状態に戻ったのだ。 「【炊事(クッキング)】……」  差し出した両掌に皿が現れた、上にはミックスサンドが乗っていた。  シンディは芝生に腰掛けそのミックスサンドに無言で噛り付く。  これは言うまでも無くただのミックスサンドではない、食べることにより戦いによって受けたダメージを回復しているのだ。 『期せずして手持ちの魔法を全て使用できましたね、どうです? 上手くやれそうですか?』 「冗談じゃないわ、こんな危険な思いをするなら魔法少女になんかなるんじゃなかった……」 『おやおや、もう弱音を吐くんですか? 先ほども言いましたがもう引き返す事は出来ませんよ?』 「分かってるわよ、私だってこのまま終わるつもりはないから……」  シンディは不機嫌そうに親指の爪を噛んだ。  そしてこの時、彼女を少し離れた位置から見ている人影があった。  しかしシンディに周りを警戒する余裕などなく、程なくしてその人影も姿を消したのだった。
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