2:冒険者たちの憂鬱

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しかしながら転職希望者を拒むことは許されないため、急遽屋外に転職者向けの教習に使用するスペースが設けられた。 ここで青空授業を定期的に行い、各々のレベルに合わせた課題を出して、試験に挑んでもらうことにした。 そしてここにピンチの職業がもう一つあった。武器屋である。これまで武器の売り上げの上位は、接近戦に使用する剣や斧、爪といった武器であった。しかし、こうなってしまった今、売れ筋なのは槍と弓矢でとにかく遠距離で攻撃ができる武器のみを皆買い求めていた。 そこで武器屋のオヤジのヘパイは考えた。「のびる爪はどうだろう?」爪を付けた腕をシュッと素早く振り下ろすと、爪が伸びる機構になっている。確かに強度は弱くはなるが、不意を突くには持ってこいの武器だ。 出来た武器をとにかくその性能を試そうと店先に並べ、原価同然の格安で販売した。武闘家たちも距離を保てる武器とあって、これを目にしたものは「これがあればいける!」そう思って、片っ端から買っていった。 ヘパイの考えは的中した。特に40代以上のもはや転職しても別の生き方を出来ないような不器用な人々からの支持は絶大だった。 また、こうしたうわさはさらに新しい者たちへと伝わっていき、ヘパイの武器屋は、ソーシャルディスタンス専用武器開発の店として急成長をとげることになった。 とにかく距離を保つこと、それがこの世界での人も魔物もない、全てを越えたルールとなりつつあった。
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