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窓の外から高架を走る車の音がぼんやりと聞こえる。長い時間をかけてそれは使い込まれた家電製品の様にこの部屋に馴染んでいた。 「ユキ、お出掛けしよっか!」 不意にアカリが大きな声を上げる。いつの間に準備したのか、既にお出掛けスタイルだ。渋々立ち上がる私の様子にも彼女はニコニコしたまま此方を見ている。特に準備も何も無い私はそのまま玄関に向かう。足を引き摺りながら。アカリは相変わらずニコニコしている。 「ね、ユキ、分かる?」 河原を並んで歩きながらアカリが口を開く。傾いた太陽の光を受けて水面がキラキラと輝く。空には帰路を急ぐ数羽の鳥。既に起き出した蝙蝠の姿もチラホラ見える。擦れ違う人々の顔は、嬉しそうだったり疲れて見えたりと様々だ。口々に何かを叫びながら小学生のグループが通り過ぎる。夕暮れ時の赤い光の中で町はなんだか忙しそうだ。そんな中を二つの影だけがゆっくりと進んで行く。 「私達だけ、違う時間の中にいるみたいよね。」 私は何も言わずに黙々と歩く。アカリもまた無言で歩く。彼女はずっとニコニコしている。
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