そこにいるだけで

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 大学四年生の頃にもさんざん受け取ったが、当時と今では重みが違う。学生の頃は手当たり次第に面接を申し込んでいたこともあり、落ちれば次に行けば良いと簡単に切り替えができていた。当時内定を取るまで六十社は受けていたはずだが、今でも同じだけの面接をこなせるとは思えない。両親は居候を不本意そうに許しているだけで、資金的な援助は全くない。面接会場への交通費などは、貯金を切り崩している状況なのだ。  そして、一度就職した者が無職になると、それは転落だと感じてしまうらしい。無職の状態になってまだ一ヶ月も経っていないのに、俊之の脳裏にはひもじく孤独な生活に陥る未来しか描けない。 「おーい、大丈夫? 暗い話にしちゃったのは悪かったけど、お箸で喉を突いて自殺とかやめてよね」  その突拍子もない可能性に、俊之は吹き出した。 「そんなことするように見えるかい」 「普通だったらそんな度胸ないだろうけど、今のとっちゃんの顔はやばいと思った」  和美は真顔だった。そして、目を伏せてしおらしい表情になる。 「別に仕事してないことを説教したくて呼んだわけじゃないんだよ」
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