そこにいるだけで

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「それぐらいわかってるよ。これでも社会人経験があるんだぞ」 「偉っそうに」  破顔した和美は、ボタンを押して店員を呼び出した。熱燗二合とおちょこ二つを、俊之に断りなく頼んでしまう。 「せっかくだし飲むだけ飲もうよ。社会人経験があるなら、お酒の付き合いぐらいちょちょいとこなせるでしょう」  それはそれ、と言えないのは、和美が嬉しそうにしているからだ。そして、和美の無茶ぶりを面白がっている自分もいる。飲まなきゃやってられない者同士、せいぜい楽しく過ごしたかった。    和美は間を置かずに飲み続けた。俊之も、残りのビールを飲み干してから熱燗に挑戦するが、和美のペースにはかなわない。  酔いが回るにつれて和美は饒舌になっていく。大学院で過ごした一年間や、三姉妹の中で何となく取り残された感じがしていること、そして就職の展望が全く開けないこと。明るい話題とは言いがたいけれど、酔いのおかげでどうでも良いと笑い飛ばせてしまう。微かに残った理性は物事を冷静に見ようとするけれど、場の雰囲気に浮かされてさっぱり流れていく。 「ばーちゃんどう?」
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