そこにいるだけで

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 和美がその話題に触れたのは、二合分の酒がなくなった時だった。手酌で注ごうととっくりを傾けたが、口から出たのはひとしずくだった。 「今まではカズが時々見てたんだっけ」 「そうだよー。ばーちゃんが引っ越した時、あたしは学生で暇だったからねー」  和美は割り箸の袋をもてあそびながら答えた。どうやら箸置きを作ろうとしているようだが、何を思ったのかちぎり始め、結局細かい破片にしてしまった。  佳枝が俊之の家で暮らすようになって二年が経つ。その頃の和美は大学三年生で、暇とは言いがたい時期だったはずだが、離れて暮らしていた自分よりは時間があったのだろう。当時の俊之は、家に戻ってくることも少なかった。 「帰ってきたらばーちゃんがあんなになってて、びっくりしたでしょ」 「そうでもないよ。カズの大変さは最近わかってきたけどさ」
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