そこにいるだけで

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 家に戻ってくるための条件として父親に言われたことが、佳枝の介護だった。面接のための交通費や履歴書を買うためのお金など資金的な援助はしない代わりに、佳枝の介護をするなら生活の援助をしても良い。無収入で部屋を借りるだけの余裕もなかったから、半ば仕事のように佳枝の介護をしている。和美のように、善意でしているわけではない。和美はきっと、報酬が目的で佳枝のもとへ通い詰めたわけではなかっただろう。 「ヘルパーでも頼んだら楽なんだろうけど」  和美はあきらめ顔で言った。 「それは駄目なんじゃなかったっけ」 「ばーちゃん、他人を信用しないから」  自分の母親を家に住まわせることにした父は、当時既に要介護状態だった佳枝のために介護ヘルパーを頼もうとしたが、本人の強い反対で断念したらしい。介護ベッドはレンタル品だが、介護事業の業者とのつながりは、そのベッドしかない。 「ばーちゃん、まだ他人に体を触られたくないって言ってるの?」 「言ってる。何とか妥協して、家族なら良いって」  和美は薄く笑って、浅くため息をついた。 「気持ちはわかるけどな」
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